<東京オリンピック(五輪):陸上>◇4日◇男子110メートル障害準決勝◇東京・国立競技場

壮絶な形で集大成の東京五輪が終わった。今季限りで引退し、歯科医を目指す意向を示している陸上男子110メートル障害の金井大旺(25=ミズノ)は終盤で無念の転倒。26秒11(追い風0・1メートル)で準決勝2組8着だった。同種目で日本勢初の決勝進出も期待されていたが、かなわなかった。

悲劇はハードル8台目。右のレーンの選手と腕が接触し、バランスを失った。必死で越えようとしたが、足が強くぶつかった。耐えきれず、視界は大きく揺らいだ。ライバルの背中が遠のく中、前のめりに倒れた。手と膝はトラックに付き、四つんばいに。「真っ白になった」。法大3年以来、5年ぶりの転倒だった。

「挑戦が終わってしまったな」。いろんな感情が駆け巡り、立ち上がった。「離脱の選択肢はなかった」。勝負は決していた中でも、最後まで雄姿を見せることが支えてくれた人への感謝を示すことでもある。ゴールを目指し9、10台目を跳び越えると、無観客の国立競技場に拍手がわいた。そして走ってきたレーンの方を振り返った。「次の挑戦はないんだな」。深々と一礼した。取材エリアでは20秒沈黙。頭と心の中を懸命に整理していた。

今季で競技人生を終える。北海道・函館の実家の歯科医院を継ぐべく、歯科大への入学を目指す。函館ラサール高出身。昔は陸上の実力が足りず、五輪に出るなどみじんも考えていなかった。「人に感謝される仕事である医療従事者になりたい」との思いが強かった。

ただ、4月に13秒16の前日本記録をマークするなど全盛期。家族からも「続けていい」と言われている。引退は今でなくてもいいのではないか? 「区切りを決めているからこそ、毎日に全力を尽くして今がある。区切りがなかったら、先延ばしにして、出し尽くせなくなる。1点集中で次の道に進む」。その言葉に金井の美学と信念が詰まる。

試合後、あらためて聞かれた。陸上で再挑戦する気持ちはないか? 「チャレンジすれば、決勝にいけるかもしれないが、この挑戦のためだけにやってきた。最初で最後と決めたからこそ今がある」。自己記録の倍の時間がかかって走りきった集大成のレース。やり切った表情だった。【上田悠太】

男子110メートル障害準決勝2組、転倒し8着でフィニッシュした金井(撮影・江口和貴)
男子110メートル障害準決勝2組、転倒し8着でフィニッシュした金井(撮影・江口和貴)