オリンピック(五輪)は世界のスターの競演だ。今週は「東京に来るすごいヤツ」と題し、特に注目される選手を紹介する。第1回は陸上男子400メートルの金メダル候補、マイケル・ノーマン(23=米国)。

自己ベストは世界歴代4位タイの43秒45だ。その母は日本人の斎藤(旧姓)伸江さんで、女子100メートルの中学記録保持者(当時)だった。東京五輪は「日本のファミリーの思いも背負う」舞台として、特別な強い決意を持っている。


日本人の母を持つ米国の金メダル候補がいる。頭に巻いているバンドがトレードマークのマイケル・ノーマンだ。東京五輪は初めての五輪というだけでなく、特別な思い入れを持っている。

「もちろんアメリカを代表していることになるんだけど、それと同時に日本にいるファミリーの思いも背負って走るんだ」

19年10月、世界陸上男子400メートル予選 45秒00の1着で準決勝進出を決めたマイケル・ノーマン
19年10月、世界陸上男子400メートル予選 45秒00の1着で準決勝進出を決めたマイケル・ノーマン

出身は米カリフォルニア州サンディエゴで、まだまだ伸び盛りの23歳。5月28日のダイヤモンドリーグ・ドーハ大会の400メートルも44秒27で優勝した。代表入りは18日に開幕する全米選手権の結果次第だが、確実視される。本職は東京五輪で頂点を見据える400メートル。とはいえ他の種目もすごい。200メートルも19秒70(日本記録は20秒03)、100メートルも9秒86(同9秒95)の自己ベストを持っている。

母は静岡・浜松市出身の伸江さん。入野中時に100メートルで、日本中学生女子初の11秒台をマークし、11秒96の元中学女子の日本記録保持者だ。西遠女子学園高を卒業後に米国に留学した。そして移住の道を選んだ。そこで結婚した米国人の短距離の選手との間に生まれたのがノーマンだ。ノーマンによると、父は「すごく速い選手ではなかったみたい。たしか400メートル47秒台、200メートル21秒2、100メートル10秒5ぐらいだよ」という。

陸上男子400メートル世界歴代5傑
陸上男子400メートル世界歴代5傑

19年5月にはセイコーゴールデングランプリ大阪で初来日し、200メートルを19秒84で優勝した。レース後は「たこ焼き」を食べて日本を満喫した。母が日本の歴史に名を残したスプリンターだったことは「16か17歳の時に他の人から聞いたんだ。(母は)謙虚で自慢をしないから」という。そして、感謝を続ける。「14歳のころは野菜を食べていなかった。でも、お母さんが体の基礎作りとして『それはまずい』と生活習慣を正してくれた。それが今に生きているんだ」と話す。

2年前の世界選手権時にも、レース前は伸江さんから激励を受けていた。「GOOD LUCK」と届き、朝5時半にも「WAKE UP」とメッセージが届いていたという。「『お母さん落ち着いてよ』って感じなんだけどね」と笑っていた。

19年10月、世界陸上男子400メートル予選を45秒00の1着で、準決勝進出を決めたマイケル・ノーマン
19年10月、世界陸上男子400メートル予選を45秒00の1着で、準決勝進出を決めたマイケル・ノーマン

強みは「偉大なアスリートになりたいとの意思」と自負する。43秒03の世界記録更新、史上初の42秒台突入の期待を背負う。

「自分のタイムについての制限を課したくない。いつか42秒台が出ると思っている。フォーカスするのは競争、レースに勝つこと。競争のレベルが上がれば上がるほど、その可能性は高くなる。だけど東京五輪はタイムなんて、どうでもいい。金メダル。それが唯一で最大の目標」

自分が生まれた国のユニホームを着て、母の祖国を走る。2つの国の思いを背負って、頂を見据える。

【上田悠太】


◆マイケル・ノーマン 1997年12月3日、米カリフォルニア州サンディエゴ生まれ。16年世界ジュニア選手権男子200メートル優勝。南カリフォルニア大を卒業、現在はプロとして活躍する。18年には室内400メートルの世界新となる44秒52をマーク。19年世界選手権400メートルは故障で本調子でなく準決勝敗退。400メートル年次ベストは16年が45秒51、17年が44秒60、18年が43秒61、19年が43秒45、20年が51秒30、21年が44秒27。185センチ。