「東京に来るすごいヤツ」第4回は競泳男子のケイレブ・ドレセル(24=米国)。フェルプス引退後の米国をけん引する「新怪物」だ。50メートル、100メートルの自由形とバタフライで圧倒的な強さを発揮して世界選手権13冠。東京オリンピック(五輪)ではリレー種目を含め最大で金メダル6個の可能性がある。男子平泳ぎで五輪2大会出場の高橋繁浩氏(60)に強さの秘密を聞いた。【取材・構成=益田一弘】

19年7月、世界水泳男子100メートルバタフライ準決勝 世界新記録を樹立したドレセル
19年7月、世界水泳男子100メートルバタフライ準決勝 世界新記録を樹立したドレセル

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■高橋繁浩氏が解説

筋骨隆々の191センチ、88キロ。ドレセルは、東京で世界的なスターになる可能性がある。17年世界選手権で「水の怪物」フェルプスに並ぶ史上最多の7冠達成。19年同選手権も6冠で「新怪物」の異名をとる。

高橋氏 事実上、米国のエースで花形種目の自由形でリレーにからむ。バタフライもこなすし、インパクトが強い。過去でいえば、マイケル・フェルプス(五輪金23個)マット・ビオンディ(同8個)。そんな絶対的な選手に近い。

総合的にすぐれたスイマーだが、最大の武器はスタートだ。

高橋氏 パワフルな選手は他にもいるが、入水時の姿勢に抵抗が少ない。足が落ちずに滑るように進む。

19年7月、世界水泳男子100メートル自由形決勝 勢いよくスタートするドレセル
19年7月、世界水泳男子100メートル自由形決勝 勢いよくスタートするドレセル

スタートして水中から浮き上がるとすでに頭1つリードしている。そこにも秘密がある。

高橋氏 人間は、上半身が旋回運動のクロール、下半身が上下運動のドルフィンキックで最も速く進む。00年シドニー五輪でマイケル・クリム(オーストラリア)がラスト15メートルでそれをやった。ただ理屈はそうでも本来の人間の動きではやりにくい。自由形の浮き上がりはドルフィンキック→バタ足→腕を動かす。でも彼は腕のひとかきが終わるまでドルフィンキック。単にパワーだけでなく、しっかり考えて、泳いでいる。

100メートル自由形は、09年高速水着時代の世界記録46秒91に0秒05差に迫っている。東京五輪では世界新で金メダルも視野に入る。

バタフライも特徴的だ。

高橋氏 水をキャッチする際に、普通は腕が左右に開くようにふわっと動く。そんな無駄な動きが入って、水をつかみ始める。しかし、彼はがちっとすぐに水をキャッチしてかく。水を逃さない技術が、素晴らしい。

最強スプリンターは人間味もちらり。ドレセルは青いバンダナを持って入場。17年に亡くなった恩師の形見を携えている。16年リオ五輪はリレー種目で金メダル2個も100メートル自由形は6位だった。東京で、競泳界の新しい象徴になる。

19年7月、世界水泳男子100メートルバタフライ準決勝 世界新記録を樹立しガッツポーズするドレセル
19年7月、世界水泳男子100メートルバタフライ準決勝 世界新記録を樹立しガッツポーズするドレセル

16年リオ五輪金メダルの萩野公介 (昨年秋の)国際競泳リーグで見た時に、鈴木陽二コーチから「(筋骨隆々の)ドレセルでさえ自由形で力んでない。お前は力んでるよ」と言われた。確かにドレセルはリラックスして泳いでいた。

50メートル自由形日本記録保持者・塩浦慎理 (19年世界選手権準決勝で隣のコース)飛び込み、スタートは次元が違う。普通は短い50メートルで相手の選手が前に見えることはないが、前にいた。100メートルの時は泳ぎを使い分けて速い。すごいタレントですよ。

男子100メートルバタフライ代表の水沼尚輝 スタートはリアクションタイムも大事ですが、スタート台を離れてからの姿勢のほうが大事なんです。入水しどうやってドルフィンキックにつなげるか。ドレセル選手はそこがすごくうまい。

ドレセル東京五輪金予想
ドレセル東京五輪金予想
19年7月、世界水泳男子50メートル自由形で優勝したドレセル
19年7月、世界水泳男子50メートル自由形で優勝したドレセル

◆ケイレブ・ドレセル 1996年8月16日、米フロリダ州生まれ。13年世界ジュニア100メートル自由形金。16年リオデジャネイロ五輪で400メートルリレー、400メートルメドレーリレーで金。世界選手権は17年7冠、19年6冠。得意種目は自由形、バタフライ。191センチ、88キロ。

(以下自己ベスト)

50メートル自由形21秒04、100メートル自由形46秒96、50メートルバタフライ22秒35、100メートルバタフライ49秒50(世)

(ニッカンスポーツ・コム/スポーツコラム「東京五輪がやってくる」)