<北京五輪開会式に芸術顧問で参加 アートディレクター 水谷孝次氏(64)>

 20年東京五輪・パラリンピックは、未来の世界はこうあるべきという価値観を提言する場にしてほしいと思います。世界は今、戦争やテロ、災害や環境破壊の問題を抱え、この先どうなるかも分からない。私はエコ、サスティナブル(持続可能性)、メリー(笑顔)が鍵を握ると思っていますが、東京から新しい価値観を発信する、チャンスにしてほしいのです。

 「22世紀への遺産」という視点が必要です。これからは皆が協力し、地球をつくる時代。これまでの価値観も変える時期にきています。持続可能な平和をどう築くか。「未来への生き方」が東京五輪のビジョンとなり、100年後の世界にも受け継がれてほしい。遺産として残るのは競技場でなく、東京五輪の価値観であってほしいと思います。

 08年北京五輪の開会式で登場した、子どもたちの笑顔の傘の写真を撮影しました。子どもの笑顔には、未来への希望がある。総監督の張芸謀(チャン・イーモウ)には、「国のためにやるのではない。9・11後の世界に対し、平和のメッセージを出す最大のチャンスです」と伝えました。

 彼が笑顔の写真を探していると聞いたのがきっかけで提供した写真は、途上国の子どもたちの、自然な本当の笑顔です。使うには中国政府の膨大な手続きが必要で、話はなかなか進まなかった。政府に掛け合い、了解を取り付けてくれたのはイーモウでした。本当の笑顔を表現したかった私に、「私がやりたかったことを、すでにあなたはやっていた」と、言ってくれました。

 開会式では1つ提案があります。選手は国ごとに入場しますが、閉会式のように、全員いっしょに出てくる。そんな、思い切ったことをしてほしい。「国」が主語になる開会式は、もういいんじゃないかな。1人1人の笑顔が重なれば、1つのアートになる。国ではなく1人、1人が主役。開会式から世界が1つになった夢のような平和な前例をつくってほしい。

 世界中に笑顔を伝える「メリープロジェクト」という活動を続けています。笑顔は本当に大事なこと。東京大会も、メリーがあふれる五輪にしてほしいです。

(2015年7月22日東京本社版掲載)

【注】年齢、記録などは本紙掲載時。