<全日本柔道連盟強化委員長 金野潤(49)>

 東京五輪は柔道界にとっては、どういう立場でどういう影響を日本国内で付与し続け、輝き続け、人々に恩恵を与え続けることができるかをアピールできる最高の舞台です。今後の柔道界50年後まで影響があると思っています。

 強化部は4年後の五輪で金メダルを取る選手を多く輩出することが第一義的な目標であるのは間違いないですが、付随して結果と内容が必要です。金メダルを取るのはすごいことだが、やはり柔道ってすごいなと思ってくれる、勝利以外のもので感動を与えていきたい。スポーツと武道が一体になっている、この価値をしっかりと示したい。

 現役時はスポーツの部分が強かった。とにかく勝つ、スポーツとしての勝敗に傾倒していました。しかし、教育者になり、五輪競技として世界にこれだけ広がっている理由はスポーツとしての完成度だけではないなと。武道を通しての人間教育、理念に、世界の人々が感銘を受けているからだと。国内でも多様なスポーツが広まる中で、勝利の価値だけを追求すれば柔道は選択されなくなる。勝利すら危うくなってくる。競技人口が減れば、スター選手も減る、日本人が勝つのは大変になるでしょうから。

 日大の監督を引き受けて3年間はスポーツとしての柔道以外考えていなかった。しかし、まったく結果が出なかった。そこで試合の技術ではなく、心の部分の教育をしていこうとシフトチェンジした。例えば、学生としての本分である勉強、掃除であったり、礼法であったり。その根底に柔道をやっている意味を説くようにしたんですね。「勝つためにやるが、なんのために勝つのか」と。

 柔道の創始者である嘉納治五郎先生の教えに、2つの規範があります。「自他共栄」。自分も他人も幸せにすることで、人間は意味がある。そして「精力善用」。自分の力を社会を良くする方向に用いること。そのためには何をしたら効果があるのかを考えて実践する思考力、行動力が必要になってくる。それを得るために柔道で勝利を得ることが大事なんだと。勝利を目指す意味合いを選手たちに説きました。すると厳しいことを言わなくても、段々成績が上がってきました。

 大事なのは柔道には目的がしっかり明記されていることです。そういう五輪競技は柔道だけではないでしょうか。魅力は、そこではないかと。4年後、それを体現する選手が多く登場できるように、強化を図っていきます。


(2016年11月23日東京本社版掲載)

【注】年齢、記録などは本紙掲載時。