中学生で陸上を始めた時、オリンピックは夢のまた夢でテレビの中の世界でした。最初に夢と現実がつながったのは、実業団に入ってから。寮で隣に有森裕子さんがいらっしゃった。同じ空間に、同じ食事をし、同じ練習をしている先輩がいる。私にも同じ可能性があるのかなと思えました。

より現実的に見えたのは5000メートルで出場した97年世界選手権。私はトラックの練習をしないで、マラソン代表の鈴木博美さんの練習パートナーをしていました。その鈴木さんが金メダルを取った時は、自分のレースよりうれしかったです。そして鈴木さんが1番になれたなら、私も4番ぐらいにはなれるかも、とマラソンへの想いが強くなったのです。

ただ初マラソンでは失敗し、2度目の名古屋国際でだめなら、マラソンは諦めて、トラックに戻ろうと考えてました。そこで当時の日本記録(2時間25分48秒)を出せて、未練なくスイッチが入ったのです。

金メダルを取った00年シドニー五輪。スタートラインに立った時は「やれることはすべてやった」と胸を張って言うことができました。相手がどれだけ練習してきたかは分からなかったですが、負ける気持ちは全くなかったです。ケニアやエチオピア選手にスピードは負けたとしても、スタミナは負けないぞと。練習に後悔がなく、前向きな気持ちでいました。

自分らしさを磨き、ここだけは負けないという自信は強さになります。選手はよく「何分を出したい」「優勝したい」と意気込みます。でも重要なのは「何で優勝できると思うか」「何が自分は一番強いと思うか」。目標への裏付けが具体的にあるか、ないかでは全然違うと思います。

現在の女子マラソンもようやく光が差し込んできました。24歳の安藤選手が去年、2時間21分台を出してから、みんなの目が変わり、「私も負けられない」という雰囲気が生まれていると思います。松田選手、関根選手と若い選手も次々、出てきました。そういった流れに後押しされ、東京五輪につながることを期待します。

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