カヌー競技を大きく分けると、スラロームとスプリントの2種類あります。急流コースに設置されたゲートを次々と通過し、ゴールまでのタイムを競うのがスラローム。16年リオデジャネイロ五輪では、羽根田卓也が日本初の銅メダルを獲得してくれました。

一方のスプリントは、静水面の直線コースで着順を競います。こちらは、実はリオでは出場権を逃してしまった。そのことが強化体制見直しのきっかけとなったものの、必勝態勢で臨んだ昨年のアジア大会も惨敗。コーチ陣をさらに盤石にしなければと、今年から“アレックス”ことアレクサンドル・ニコノロフをまとめ役に招請。これが転機になりました。

アレックスはかつて英国代表を率いて、ロンドンとリオの両五輪で金メダリストを育てた名将。教え方は理論的かつ効率的で、練習時間はこれまでの約半分ながら、質が高く、内容が非常に濃い。さらに日本選手がエネルギーを最大限発揮するパターンを見抜き、中盤まで力を温存し、後半にペースを上げていく作戦を取り入れました。

その成果が表れ、8月の世界選手権ではカヤック男子4人乗りで東京五輪出場権を獲得。これは大きく、来夏の本番に合わせて、じっくりトレーニング計画を作成できます。

スラロームでは羽根田のメダル効果がはっきり出ていて、みんなが、次は自分の番だと張り切っている。男子カヤックシングルの足立和也はW杯で銅メダルを2度獲得し、女子の矢沢亜季はアジア大会優勝。カナディアンシングルの羽根田は調子がいまひとつですが、最後はきっちり合わせてくれるでしょう。

私自身は現役時代、世界選手権には3度出場しましたが、オリンピック出場の夢はかないませんでした。だからこそ、憧れの気持ちは、常に持ち続けています。初めて現場で五輪を体験したのは、NHKで解説を担当させてもらった08年北京五輪。世界選手権とは雰囲気がまったく異なりました。さまざまな種目が、あちこちで行われているから、盛り上がり具合が違う。来年の東京五輪に向けて、声援を力に変えられるよう、選手の精神面も強化させていきたいと考えています。(268人目)