私は千葉県松戸市に拠点を置く陸上クラブチーム「ダイバーシティA.C.千葉」の運営兼コーチをしています。メンバーは知的障がいがある社会人を中心に計9人。今年、男子400メートルで日本記録を2度マークし、東京パラリンピック出場も狙える岸田悠弥(24)ら日本のトップクラスで活躍する選手たちも所属しています。

陸上に関わるようになったのは10年4月、教師として千葉県立特別支援学校流山高等学園に着任してからです。担任をしていた陸上部の生徒のメンタルケアができればと顧問を務めるようになりました。今まで本格的な陸上経験はなかったので、指導は他の先生に任せてのんびりながめていようと思っていましたが、毎日選手の動きを見ているうちに何が必要なのかわかるようになり、自然にコーチをするようになりました。日本陸連のジュニアコーチ資格研修の受講から始まり、さまざまな角度から競技力向上の情報を収集し、数年後には県や日本代表のコーチも経験させていただきました。

チームは14年12月に立ち上げました。学校を卒業した生徒が社会人になっても競技を続けられる環境を整えるためです。昨年2月には、一般社団法人化し、5月にグループホームとしての選手寮も開設しました。岸田ら社会人の男子5人が入寮し、競技と仕事を両立し、それぞれ趣味も楽しんでいます。近々、地元企業のサポートを受けて新規事業を立ち上げ、障がい者雇用の機会を広げる計画もしています。彼らが陸上選手としての一線を退いた後も、より選択肢の多い生き方ができるようにいろいろな可能性を残しておくためです。

私は高校、大学と音楽を専門に学びましたが方向転換し、米国留学を経て長く編集デザイナーとして働いていました。そんな中、ボランティアで特別支援学校の存在を知り、通信教育で教員免許を取得見込みで採用試験を受験し、千葉県の教員として採用されました。その後、19年に教職を離れました。難病で働けなくなっていった父の死をきっかけに、1度きりの人生、多少のリスクはあっても自分のやりたいことに挑戦する生き方をしろと、父から教わった気がしたからです。

今、私がこんなに夢中になれる生き方を見つけられたのは、選手たちに出会えたおかげです。選手たちが私に見せてくれた世界。選手たちがつないでくれた大切な方々とのご縁。家族のような選手たちの今、これからをいつも応援していける存在であるために、日々学び、仲間とともに未開の地へ挑戦し続けていきます。(326人目)