井上康生・男子日本代表監督が理事長を務めるNPO法人「JUDOs」の事務局長として、柔道を通じて国際交流、子供たちの健全育成を図ることを目的に活動しています。柔道が日本の国技として世界で通用したのは、何かの意味があり、意味を与え続けてきた先人の努力の結晶だと思っています。それが何か。探りながら、可能性を信じて動いています。

競技者として柔道を続けてきて、スポーツをなくすと人間らしさが失われると感じています。そもそもスポーツは「遊び」の意味もありますし、オリンピック(五輪)は「祭典」と言われますが、まさに祭りで人の心を燃やしたり、1つにする最大の力があると感じています。

昨年の活動ではネパールのヒマラヤ山脈エベレストの標高3790メートルにある「ヒラリー学校」に柔道畳50枚と柔道着131着を寄贈しました。東京港から船便でインド・コルカタ港へ。陸路でカトマンズ、さらにヘリコプターで頂上まで運び、シェルパ(高所のポーター)の方に学校まで運んでもらいました。街全体で喜んでくれ、まさに「祭」のようでした。

柔道は同学校では教育にも活用されています。創始者の嘉納治五郎先生の教えを解釈し、他者への信頼などを、柔道を通じて学んでくれている。寄贈がその一助となればうれしく、また教育という側面での意味も大きくあると確信しました。現在は世界の200以上の国と地域で柔道は広がり、フランスでは日本より多い競技人口となっています。嘉納先生の教えに「自他共栄」があります。自分だけでなく他の人と助け合いながら良い社会をつくっていくこと。その基本精神を生かし、柔道を通して平和を実現していきたいです。

16年リオデジャネイロ五輪では日本代表のサポートで現地にいました。「平和の祭典」という言葉がありますが、実際に「スポーツ」という1つの切り口で多様な人種、国籍の方々と交流を持てたことは財産です。東京五輪では柔道の発祥国での開催として、また何か新たな価値を発見できると思っています。

国内の柔道環境を見ると、五輪後を考える必要性を痛感しています。少子化で競技人口が減るのは避けられませんが、社会における柔道の「意味」が問われると思います。メダルを獲得する一時のフィーバーで終わらない価値を考え、携わっていきます。(332人目)