1964年のオリンピックは僕も東京12チャンネル(現テレビ東京)の一員として取材した。高度成長に入ってOECDに加盟できて、先進国の仲間入りができたことを示す大会で、日本中が興奮した。党首討論で菅さんが明かした思い出話のように、僕もマラソンやバレーボールの感動を今も鮮明に覚えている。

しかし、今回は緊急事態宣言下の前例のないオリンピックだ。世論も二分されている。昨年3月、1年延期でIOCと合意した安倍さんは「人類が新型コロナウイルス感染症に打ち勝った証しとして完全な形で開催する」と言った。引き継いだ菅さんはさすがに「打ち勝った証し」とは言わなくなったが、中止や再延期は全く頭になく、有観客に最後までこだわった。

菅さんに会ったのは6月21日だった。5者協議で定員の50%未満、最大1万人の有観客が決まった日で、その3日前に尾身茂さんたちが有志で無観客開催を提言していた。(新型コロナウイルス感染症対策)分科会の幹部から「この段階になって中止を言っても、もうリアリティーがない。だから感染拡大のリスクが最も低い無観客を提言した」と聞いていたから、菅さんに「なぜ無観客にしないのか。有観客で感染者が急増したら、内閣崩壊だぞ」と言った。菅さんは「それは覚悟している。そうならないため、あらゆることをやりたい」と言った。

7月8日の4回目の緊急事態宣言で結果的にほぼ無観客になったが、東京の新規感染者は22日、1979人になった。尾身さんはテレビで「このままのスピードで広がると、2週間後には2倍になって第3波のピークを超えていく可能性が出てきた」と話している。

4000人を突破するようなことになったら、内閣は崩壊する。菅さん自身は内閣崩壊もあり得ることを覚悟しているが、自民党の国会議員の多くにその緊張感がないことは大問題だと思っている。仮に崩壊しても野党に転落することはないという気の緩み。古い話になるが、安倍さんが3選した3年前、僕は「国民の70%以上が森友、加計は問題だと思っている。自民党の国会議員で安倍さんのところへ『問題だ』と言ってきたのはいるか」と聞いた。安倍さんは「いない」と言った。「1人もいないのか。ごますりばかり考えている国会議員がそろって、この国は危なくないのか、心配にならないのか」と言ったら、安倍さんは「そう言われたら、心配になる」と言っていた。弱すぎる野党とイエスマンだらけの自民党が大問題なんだ。

今の事態を招いたのは、ワクチン獲得競争の出遅れと水際対策の失敗だ。そこに菅内閣最大の問題である説明下手が加わって、不信に輪を掛けた。菅さんはウォール・ストリート・ジャーナルに「競技が始まり、国民がテレビで観戦すれば、考えも変わる」と答えていたが、日本人選手の活躍で空気が変わって思惑通りに政権浮揚につながるかどうか、感染者数次第だろう。菅さんには嫌な話になるが、64年の池田(勇人)さん、72年の佐藤(栄作)さん、98年の橋本(龍太郎)さんと、オリンピックが開催された年、時の首相は辞任している。

◆田原総一朗(たはら・そういちろう)1934年(昭9)4月15日、滋賀県生まれ。早大卒。岩波映画、東京12チャンネルを経て77年からフリー。「朝まで生テレビ!」(テレビ朝日系)の司会は87年から続く。菅首相とは2カ月に1度、面談している。今大会、注目しているのは競泳の池江璃花子。