東京五輪の試合は、スマートフォンを活用して観戦する機会が多いです。これまではテレビに頼っていましたが、今回はネット配信の中継を観る機会が少なくありません。日本が2つのメダルを獲得したアーチェリーの試合も、スマホで観ました。五輪も、観戦方法も、新しい時代に入ったということでしょう。

アーチェリーは複数メダルを獲得しましたが、特にうれしかったのが男子団体の銅メダル。この種目のメダルは初めてで、日体大の教え子の河田(悠希)選手がやってくれました。選手村入村前に日体大を訪れ「これからピークに持っていき、メダルを取ります」と宣言しました。再会したら今後の人生でメダリストに求められる振る舞いについて伝えたいと思います。

新型コロナウイルスの感染拡大が収まらない中、今夏に五輪を開催するなら、無観客開催しかないと思っていました。中止は選手たちにとって酷だと常々訴えてきました。とはいえこの世界的イベントを、観客抜きで開催するのは本当に残念でなりません。

選手からはSNSを通じてファンの応援を感じたという声が多く聞かれました。私も使っていますが、いろんな人の声を手軽に知るツールとしてSNSは非常に便利です。一方で誹謗(ひぼう)中傷の書き込みも絶えません。卓球の水谷隼選手や体操の村上茉愛選手が被害を打ち明けました。SNSがこれほどクローズアップされる大会は過去にありませんでした。

相手の気持ちを考えずに思ったことを吐き出す人が多いのは残念ですが、昭和の時代にも大勢いたように思います。居酒屋などに集まって悪口を言っていたのが、今はSNSで拡散されて可視化される。私も過去に被害に遭いました。当時は人気選手に対する中傷は有名税のようなものだと周囲からも言われ、気にせず付き合ってきました。

ただ、度を超えた脅迫など犯罪に直結する行為は厳正に対処してほしいです。日本オリンピック委員会(JOC)も対応に乗り出すとの報道がありました。規制がなかなか難しい中、早いアクションが必要です。処罰される「実例」が出ることで、そんな投稿がなくなることを願います。

こうした問題が目立つのも、五輪がナショナリズムを刺激する側面が強くなっているからだと思います。国別のメダル獲得数をランキング形式で発表するのは、国家間の競争をあおる一因になっています。鍛え抜いた肉体を駆使して、アスリートが最大限のパフォーマンスを披露する。そして、国のしがらみを忘れて互いの健闘をたたえ合う。これこそがスポーツの意義であり、五輪のもたらす大きな役割です。

ボランティアの皆さんや医療従事者の方々、警備対応の警察官など多くの人たちが関わっていることに選手は感謝し、大会を終えてほしいです。

◆山本博(やまもと・ひろし)1962年(昭37)10月31日、横浜市生まれ。日体大3年時に出場した84年ロサンゼルス五輪で男子個人銅メダルを獲得。20年後の04年アテネ五輪で同銀メダル。23年パリ五輪を目指すため、昨年8月に指先のしびれなどを引き起こす「胸郭出口症候群」の修復手術を受けた。現在は日体大教授や東京都体育協会会長を務めながら競技を続けている。