290キロに会場がどよめいた。パラリンピックのパワーリフティング107キロ超級(運動機能障害)でロンドン、リオデジャネイロ大会を連覇し、310キロの世界記録を持つシアマンド・ラーマン(29=イラン)が27日、都内の東京ビッグサイトで開催されたイベントに登場。非公式ながら試技を行い、290キロをあげて「世界一の怪力」をアピールした。

 260キロ、275キロを軽く1回でクリアすると、ラーマンはバーベルの重量を290キロに指定した。確実にあげたように見えたが、日本パラ・パワーリフティング連盟のジャッジ3人のうち2人が赤判定。デモンストレーションとはいえ、「失敗」に王者のハートに火がついた。自らリクエストした4回目の試技。大きなうなり声とともに丸太のような両腕に力を込める。完璧に290キロを差し上げると、会場にはため息、歓声、拍手が渦巻いた。

 イランのパラ・スポーツ界の至宝。リオでは305キロの世界新で連覇を決めた後、記録に挑む特別試技で310キロに成功した。2位以下に70キロ以上の差をつけたどころか、ほぼ同ルールの健常者の世界記録を35キロも上回り、人類初の300キロ超リフターになった。大会出場以外は海外に出る機会はほとんどないが、日本連盟、欧州のバーベルメーカーと日本の代理店の要請で初来日が実現。25日から競技体験会や講習会にも参加していた。「日本の人たちはみんな親切で優しくしてくれるんだ。東京の街も気に入ったよ」と、試技中とは別人の柔和な笑顔を見せた。

 幼いころに小児ポリオにかかって下半身が不自由になった。19歳で競技を始め、わずか2年で285キロの世界記録を樹立。12年のロンドンを280キロで制した際にリオでの300キロオーバーを宣言し、その通りに実現した。体重175キロ超、胸囲180センチ超、上腕囲75センチの体に秘めたパワーは計り知れない。現在は9月30日開幕の世界選手権(メキシコ)へ向けて調整している。

 「ナショナルコーチの練習メニューが僕を強くしてくれる。今年の世界選手権でも新記録を出すよ。20年東京では320キロ以上をあげるので、みなさんにぜひ見てほしい」。パラ3連覇と記録更新を約束したラーマンは最後にちゃめっけたっぷりに言った。「食べ物? 肉より魚が好きだよ。楽しみ? スイミングと眠ることとマッサージさ」。黒い瞳が少年のように輝いていた。【小堀泰男】