アルペンスキー女子回転の安藤麻(21=東洋大)は、大きな家族愛に包まれて夢舞台に立つ。幼少期から兄佑太朗さん(23)とともにスキーのとりこになり、「絶対 オリンピックで金メダル」を兄妹、共通の目標としてきた。日本のアルペン女子で06年トリノ大会以来12年ぶりの五輪をつかんだ妹の大願成就は、大学卒業後、競技から離れた兄にとっても夢がかなった瞬間だった。

 アルペン兄妹の夢は、実家に両親が設けてくれたワックスルームの壁に刻んだ「絶対 オリンピックで金メダル」からスタートした。当初は「絶対」を「絶滅」と書き間違え、修正したという。

 佑太朗さん 僕が小学1、2年で麻はまだ幼稚園児でした。油性ペンで共通の目標を掲げたのですが間違いを指摘され、黒く塗りつぶして書き直したのをよく覚えています(笑い)。金メダルはともかく、僕の夢でもあった五輪出場を現実にし、かなえてくれて、心からうれしい。

 幼少期から母奈保子さん(50)に連れられ、自宅近くの小さなスキー場に通う毎日を過ごした兄妹。2人はみるみる上達し、スキーチーム「旭川ジュニアアルペン」に加入後、夢は目標へと変わっていった。平日は午後4時30分から閉場まで約6時間、冬休みは母奈保子さんが弁当3個ずつを用意し、午前9時開場からほぼ一日中、スキー場で過ごした。

 佑太朗さん 母が高熱を出して2人が滑りに行けなかった時、スキー場から電話がきて心配されたほど。「ここではもう学ぶことはないから、もっと大きなスキー場へ(行きなさい)」と、1万円いただいたこともあった。その時、買ったおそろいのヘルメットは、今も大事に取ってあります。麻はトイレに行く間も惜しんで無言でひたすら滑り、スキー場をはしごしたことも。ものすごい努力をする天才でした。

 佑太朗さんが北照高1年、麻が旭川東陽中3年の時、総体と全国中学の回転で兄妹同日優勝した。

 佑太朗さん 麻は小さいころから無敵でしたが、僕は全国レベル初優勝。1回目49番スタートから3位でしたが、まさか勝てると思わなかった。2回目のスタート前に監督から「麻が優勝したぞ。同じ親から生まれたのだから、お前もできる」と言われ、気合が入りました。母が「一番幸せな母親だわ」と言ってくれて、あんなにうれしかったことはなかった。

 妹が兄の後を追い北照に進むと、母奈保子さんはともに小樽市に移り、東洋大に通う今は東京で2人暮らしを続ける。兄のバックアップも変わらない。昨春の早大卒業と同時に競技を離れ、名古屋の食品会社に務める佑太朗さんは、海外遠征が多い妹の体調を気遣い、出発前に保湿性の高いマスクや消毒剤を購入して届ける。

 佑太朗さん 半分は「押し売り」ですけどね。父は黙って見守ってくれているし、母は「逆単身赴任」。麻もそれに応え、誰よりも努力してきた。とにかく風邪や体調にだけは気をつけて、自分の滑りをしてほしい。躊躇なくアタックしてほしい。【奥村晶治】