ショートプログラム(SP)で首位の羽生結弦(23=ANA)が、フリーで206・17点をマークし、合計317・85点で14年ソチ五輪に続き、金メダルを獲得した。

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 羽生は自分のやるべきことを1つ1つ丁寧にやっている印象を受けた。冒頭の4回転ジャンプは難度が高いループではなく、サルコーにしてきた。体調を考慮しての選択だが、決して攻めていないわけではない。

 野球で大振りでホームランを狙うよりも、勝利を考えてバントをする場面がある。それは1人のバッターだけ見れば消極的な選択に映るかもしれないが、得点を入れることを考えれば攻めていると言える。ループを入れることは攻めの「構成」だが、外して総合的な“得点”を稼ぐことを狙うのは、攻めの「姿勢」だ。SPでは「五輪を知っている」と発言した。そこは勝つための場所。だから冷静な選択ができた。最後は足が止まりかけていた。体力面の不安はあったが、うまく切り抜けた。

 宇野は最初のジャンプの転倒で体力的にも精神的にもきつくなったが、その時に笑えたと聞いた。吹っ切れたのだろう。自分が納得する練習が出来たからこそ、混乱せずに笑え、面白いと感じられたのでは。余裕というより、やるべきことをやった人しか得られない2段ほど上の心境だと思う。

 大会全体では、4回転が回数も種類も驚異的に増えた。羽生より下の世代の10代選手がフリーで5本、6本を跳ぶ。非常にレベルが高いが、同時に速い進歩はケガの危険もはらむ。国際スケート連盟(ISU)は抑制の意味も込めて、基礎点を下げる検討をしているが、僕は回数制限をすべきだと思う。例えば総ジャンプの半分までにすれば、高騰する技術点と表現面を評価する演技構成点のバランスは取れる。選手のキャラクターや演技のストーリー性などをもっと掘り下げた選手が出てきてほしい。表彰台に上がった2人の日本選手は特に個性があった。

 最後に羽生には今後、現役の継続はもちろん、金メダルを取るまでの経験を後輩に伝えてほしい。ピークの合わせ方、普段の練習方法、心理的アプローチなど、次世代に授ける役割を期待したい。(10年バンクーバー五輪代表、11年世界選手権銀メダリスト)