全日本選手権2連覇中の宇野昌磨(20=トヨタ自動車)が初舞台で輝きを放った。

 2度の4回転ジャンプを粘りきって降りきり、104・17点。自己ベストに0・70点に迫る高得点で、羽生結弦、ハビエル・フェルナンデスに続く3位につけた。

 「決して自分の完ぺきな演技ではなかったんですけど、それでも今のコンディションで満足いく演技ができたのでガッツポーズが出ました」とフィニッシュポーズを解くと、拳を振った。

 「う~ん、フリップはもう少しできたかな」と振り返った冒頭の4回転フリップは、腰が落ちてスケート靴が氷に触れそうになりながらも、こらえきった。後半最初の4回転トーループと3回転トーループの連続ジャンプも「もう少し団体戦の方が良かったかな」と9日の団体戦と比較したが、ミスにはつなげない。「スケーティングでよくつまずくところが多かったので。気持ちがちょっと高まりすぎたのかなと思いました」と反省を口にしたが、まとめきってみせた。

 大切な五輪イヤーに選んだSP曲「冬」。信頼する樋口コーチのチョイスを「自分に合う曲なので感謝しています」と異論無く受け入れた。誰もが聞いたことがある名曲を前に「すごい王道。いろいろな方々が使っていたプログラム。この曲といえば僕の名前が出るように、(自分の)ものにできたらと思っています」。その一方で、滑り込むうちに気付くことがあった。昨年10月、今季のグランプリ(GP)シリーズ初戦スケートカナダに臨んだ際にはこう言い切った。

 宇野 最近「何かを表現しよう」とかいろいろやってみたんですけれど、難しくてロボットみたいになってしまう。僕は毎回演技が違うぐらいの勢いで、気持ちに左右される表現でいいんじゃないかなと思っています。それが自分の「いい味だ」って言ってもらえるように、演技を磨き上げたいと思います。

 多くの日本人選手と違い、選曲も樋口コーチであれば、振り付けも同コーチ。だからこそ練習を積みながら、細かな動きに常時手を加えてきた。意見を言うのではなく、受け入れるだけだった宇野にも、シニアのトップレベルに上がるにつれて変化が見られた。

 樋口コーチ 昨季の後半か、今季ぐらいから振り付けも「もっとこうしたい」と言うようになった。彼にしか分からない動きと、私が見た客観的な動きをミックスできるようになった。

 4回転ジャンプは今季のサルコーの成功で4種類に増えた。高難度のジャンプへとつなげる細かな動きやステップに、宇野の意向は取り入れられている。ジャンプが注目されがちだが、1つの譲れない軸がある。スケートカナダのメダリスト会見では各国の記者たちに、はっきりと伝えた。

 宇野 どちらかというと、今の自分はジャンプ寄りっていう気がする。でも、ジャンプより表現の方でうまくなりたい。(カナダの)パトリック(チャン)と(米国の)ジェーソン(ブラウン)に比べると全然なので、いつか同じように「表現ができている」と言われたい。

 だからこそ今季、五輪という大舞台を強く意識はしてこなかった。宇野の目指す場所は順位や名誉ではなく、その先の理想にある。この日の反省は、その信念の裏返しだろう。

 理想を体現できる機会はあと1回ある。明日17日のフリー。望みは1つ。

 「こうやって、笑顔で終えられる1日にしたいです」