SP3位の宇野昌磨(20=トヨタ自動車)がフリー3位の202・73点を記録し、合計306・90点で銀メダルを獲得した。重圧のかかる最終滑走で冒頭の4回転ループを転倒。「笑いがこみ上げた」と頂点を狙う考えを瞬時に変え、大きなミスなくまとめた。身長159センチと小柄な次世代のエースが憧れの羽生に続き、昨春の世界選手権以来となる日本のワンツーフィニッシュを実現させた。

 銀メダルを伝えるスクリーンを、宇野は穏やかに笑って見つめた。「順位がうれしいんじゃなくて、自分の演技ができたことがうれしかった」。最終滑走の冒頭、4回転ループで転倒し「ノーミスなら1位になれる」と想定した計算は狂った。瞬時に「笑えてきました」と心にゆとりを持ち、残りのジャンプを全て着氷。5歳から習う樋口コーチの涙の抱擁を受け止めた。

 172センチの羽生、173センチのフェルナンデスと並んだ表彰式も五輪の特別感は感じなかった。上向きな視線もいつもと変わらない。

 身長は159センチ。幼少期から学校では常に背の順の先頭を争ってきた。冷蔵庫に常備された1リットルの牛乳パック2本を飲み干すのは日課。4歳年下の弟樹さん(16)が「僕の分、あんまりなかったです」と苦笑いするハイペースぶりだった。

 自宅の壁には兄弟2人の名前が左右に記され、ことあるごとにマジックで「これだけ伸びた」と成長の跡を競い合った。成長期に入った中学生の弟に身長を抜かされると、ムキになって背伸びで写真に納まった。浅田真央さんらを育てた山田コーチは「見たくれ(外見)としてはね…」と競技における“欠点”を語り、樋口コーチとは「こればっかりはしょうがないもんね」というやりとりをしてきた。

 両手の握力は全国新体力テストに換算し、小6男子の平均値となる20キロ台。昨年5月から携わる出水慎一トレーナー(39)は目を丸くし「女の子と変わらん」と2人で笑い合った。無意識に右を使ってきた体は左右のバランスを欠き、振り付けも主な動作は右半身で行う。突出した身体能力こそないが「違う武器で人より素晴らしくやろうと努力している」(山田コーチ)と表現力を先に伸ばした。

 拠点の中京大リンクでは樋口コーチの「やめなさい」の声で練習が止まる。黙々と4回転ジャンプを跳び続け、周囲が肝を冷やすのがお決まりだ。中学から始めたトリプルアクセル(3回転半ジャンプ)習得には5年がかかった。1日100本を超える練習でも決まらず、自分に涙する日々。宇野は「全然うまくならなかった。その期間がつらかった分、今が楽しい」と1つの成功を機に、次々と4回転ジャンプが決まった。小柄な体を生かし、スピードに乗った踏み切りと、回転軸の作り方を徹底した練習でものにした。

 「いつもの試合の1つ」と表現した五輪を経て感じた。「フィギュアで良かったなって思います。(体が)大きい方が(演技が)大きく見えるけれど、僕のような体形でもトップで戦っていけることを励みに、誰か頑張ってくれたらなと思います」。今後も羽生や、世界に挑む姿が、必ず次世代の夢になる。【松本航】

 ◆フィギュア身長メモ 男子シングルに出場した30人の中で、最も低かったのが159センチの宇野だった。その次はキーガン・メッシング(カナダ)の162センチ、イー・ジージエ(マレーシア)とネーサン・チェン(米国)の166センチ。ちなみに最も高かったのがヤロスラフ・パニオット(ウクライナ)の183センチだった。