日本のエース渡部暁斗(29=北野建設)が2大会連続の銀メダルを獲得した。前半ジャンプ(ヒルサイズ=HS109メートル)で105・5メートルを飛んで3位につけ、後半距離(10キロ)をトップと28秒差でスタート。激しい競り合いの中で順位を1つ上げた。渡部暁の銀で冬季五輪の日本勢のメダル数は通算50個となった。
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まさにソチ五輪の再現だった。残り1キロの最後の上り。渡部暁がスパートをかけるより一瞬早く、前回覇者のフレンツェルが動いた。ぐいぐい駆け上がる相手に必死に追いすがる。それでも地力の差を見せつけられ振り切られた。ゴールでは右手を遠慮気味に掲げ、舌をぺろりと出した。
差は4秒8。前半ジャンプで3位につけ、後半距離では中盤から4人の集団を作り、ラストで抜け出すまではプラン通りだったが、同じ年のライバルの背中は遠かった。「あそこで行くのは分かっていたけど勝ちきれなかった。ただ、メダルを取れたことは素直にうれしい。1個あるのとないのとでは次への重圧が違うから」と納得した。
世界では「シルバー・コレクター」と紹介されてきた。W杯でも総合2位が3度。「そこを打破するか、2位のままで終わるのか。僕はそこをどう攻略するか、プロセスも含めて楽しんでいる」と独特の感性で話す。今季はW杯で自身初の4連勝を含め、5勝を挙げて総合首位に立つ。昨季後半から改善したジャンプが高いレベルで安定し、後半距離で余裕が生まれた。「万年2位」を払拭(ふっしょく)しつつあり、4年前より確実に成長している。
幼少時から貪欲に競技を追求した。小学校低学年のころ、段ボールで人の形を作って階段の上から飛ばした。何体か箱にしまって、暇さえあれば飛ばしていたという。父修さんは「あの頃からこだわりはすごかった」。異種競技に取り組むのも独特の感性からだ。これまで、ボルダリング、マウンテンバイクなど多くの競技を練習に取り入れた。スキーとは違う動きの中で、ヒントを模索するなど旺盛な探求心で世界に肉薄する。
前回五輪の雪辱はならなかったが、20日は個人ラージヒルが行われる。「金メダルの可能性は4年前よりある。良い流れがくれば」。世界一へ、何度でも挑んでみせる。【松末守司】
◆渡部暁斗(わたべ・あきと)1988年(昭63)5月26日、長野・白馬出身。3歳からスキーを始め、98年の長野五輪観戦をきっかけに白馬北小4年からジャンプを始め、白馬中1年から複合に取り組む。3大会連続出場となった14年ソチ五輪で、複合個人ノーマルヒルで銀メダルを獲得。ソチ五輪後に由梨恵と結婚。妻由梨恵はフリースタイルスキー、ハーフパイプ(HP)で平昌五輪に出場している。渡部はメンタル強化に座禅を取り入れている。何事にものめり込むタイプで、帰宅した妻が話し掛けても一切反応しない。「完全に座禅をマスターしていれば、僕の存在はなくなっているはず」と、独特の言い訳で妻をあきれさせている。173センチ、60キロ。