今日9日に開幕する平昌五輪(ピョンチャンオリンピック)のノルディックスキー・ジャンプ女子で金メダル候補の高梨沙羅(21=クラレ)がV字回復をみせた。8日に初の公式練習が行われ、1回目99メートル、2回目105メートルと飛距離を伸ばし、3回目にはこの回の最長不倒となる106メートルの大飛躍。昨季からW杯11試合未勝利の不安要素を吹き飛ばし、4位に終わった14年ソチ五輪の雪辱へムードは高まってきた。ジャンプ女子は予選なしで12日に行われる。
平昌の夕日をバックに高梨が、ぐんぐんとライバルに迫った。「様子見」だった1回目こそ99メートルで全体6番手だったが、ここからK点(98メートル)を大きく越えた。2回目に105メートル、3回目は不利な追い風の中、この回の最長不倒となる106メートルの大ジャンプで、今季W杯10戦7勝のルンビ(ノルウェー)を50センチ上回った。
本番では飛型点など他の要素も加わるため、飛距離だけでは判断できないとはいえ、ライバルとの息詰まる前哨戦で“1勝2敗”。決戦の地に入り、上昇カーブを描き、今季のW杯でつけられてきた圧倒的な差は間違いなく埋まっている。「いよいよ始まったなという感じ。3本目は一番良かった。まずはいいスタートが切れた」と手応えをつかんだ。
日本だけでなく韓国でも熱視線を浴びている。入国した6日も仁川空港で大歓迎を受けたが、会場に取材に訪れていた韓国メディアは「小平、沙羅が人気」と話し、さらに「沙羅は『妖精』と言われている。すごくかわいい」と仕事を忘れ、興奮状態で見守った。
高梨にとっても相性のいい場所だ。昨年2月に五輪テスト大会を兼ねて同じ会場で行われたW杯2戦で初戦2位、2戦目に優勝し、ジャンプで男女を通じ最多の53勝に並んだ。ただ、その後は11戦未勝利と苦戦。このタイミングで最後に勝った“相思相愛”の地に戻り、「ご飯がおいしくてそれが一番楽しみ。辛いのが好きなのでキムチがおいしい。白米があるのもすごくうれしい」と自然と笑みがこぼれた。
ここまでの苦しみはメダル獲得の布石かもしれない。ルンビやアルトハウス(ドイツ)らが台頭し、以前の高梨なら自分を見失ってもおかしくなかったが「焦らず、慌てず、諦めず」の言葉を胸に映像などで自分のジャンプを解析。助走路の滑りで重心の落とし方にヒントをつかんだ。五輪直前の欧州合宿では2日間のジャンプ練習で約10本を飛び精度を上げた。「やるべきことは分かっている。そこに集中したい」と自分と向き合っている。「金メダルを取るためにやってきた」。4年前のリベンジへ、ぶれぬ思いを平昌の空に解き放つ。【松末守司】