日本のエースが、悲願の金メダルを獲得した。女子500メートルで小平奈緒(31=相沢病院)が36秒94のオリンピック(五輪)記録で優勝した。

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 98年長野五輪男子500メートル金メダリストの清水宏保氏(43)が、小平の強さを徹底分析した。日本スケート勢では、自身以来、20年ぶり2人目の世界の頂点。金メダリストならではの視点で、強さのポイントに<1>スタート<2>フォーム<3>探求心の3つを挙げた。大好きなスケートをいかに速く滑るか。日々追求し、数々の課題を乗り越えた世界最速女王。清水氏は金メダルも通過点と断言した。

 1000メートルの悔しさを引きずらず、小平はスタートから完璧なレースだった。3度目の大舞台での金メダル。特に、オランダ留学を経た、この4年間の進化に強さの秘密が詰まる。3つのポイントを具体的に説明したい。

 <1>スタート 

 他選手と構えが違う。右腕を後ろではなく、高くキープし、手のひらを外側に向けて構えている。スタート時は、腕を振り、上体にひねりを加えて、勢いよく飛び出す。陸上では、親指でポールをはじく練習をよく見かけた。スタートは全身の連動性が大切。小平は親指から連動して大胸筋も使ってスタートダッシュにつなげている。

 100メートルのストロークは前回ソチ大会時は30歩。今は平均で2歩減っている。普通は3歩目まで走る選手が多い中で、最初の1歩目から滑れる。「ロケットスタート」が武器だった自分もそうだったが、スタート時の勢いが増したことで、1歩目から滑りに移行でき、タイムも約0秒2短縮させている。

 <2>フォーム

 頭の位置が上がり、腰、股関節の位置が下がった。以前の前のめりのフォームでは、極端に言うと、足のつま先に重心がいき、スケートの刃が着氷した時にブレーキになっていた。今は腰の位置を落としたことで、歩行と同様に、かかとからしっかり着地して、前への推進力が生まれている。コーナーも安定し、スピードも加速できる。

 自分は現役時代、チーターの走っている映像をよく見た。なぜ速いのか。なぜ股関節がスムーズに動くのか。見つけた答えは背骨だった。背骨が車のサスペンションの役割を果たす。それを再現するため、1つ1つの背骨につく筋肉を普段から鍛えた。小平も同じだった。背骨の重要性を理解し、背骨1つ1つを回旋させるストレッチ、トレーニングをした。骨の付着部の筋肉も使いこなすことで、まさに全身をバネのように動かせている。だからチーターのように速い。

 <3>探求心

 小平の信州大の卒論は「有力選手のカーブワーク動作解析の研究」。とにかくスケートが大好きで、速く滑りたい。だから速くなるためには何でもする。自分もそうだったが、解剖書を持ち歩き、自分の体を知り尽くす。体を知ると、スクワットなど、1回1回が質の濃いものになるし、不調の対処、ピークの持っていき方もプラスに働く。選手は感覚を重視するが、そこに理論が加われば、最強のスケーターになる。

 スピードへの探求心が強いから、五輪金メダルも通過点。金メダルを取ることも大事だろうが、それよりも、スピードを出すための方法、技術を突き詰めることに意義を見いだす。だから昨年1月に、誰よりも早く「サファイア」という、今流行するスケートの刃に変更した。女子では未知のスピードを出したい。子供の運動会の駆けっこと同じで、タイムを縮めることを純粋に楽しめる。好きこそ物の上手なれ。遅咲きの31歳、小平の時代はしばらく続く。