自己記録9秒98の小池祐貴(26=住友電工)が、100分の1秒差で4位に入って、初の五輪切符を決定的にした。後半からじりじりと迫って10秒27。10秒28だった5位桐生に先着した。参加標準記録10秒05を突破していた5人の中で3番手になり代表入りする。電光掲示板で順位を確認して、両手を3度たたいた。

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19年7月に「9秒98」をマークすると、一気に環境が激変。もともと「もともと目立つのが嫌い」な性格。9秒台スプリンターとして、注目度が一気に高まり、戸惑っていた。もともと9秒台を出すよりも、世界で活躍してこそ一流という考えが強かった。自分の中では「9秒台」は、そこまでの大願でなかったのに、周囲からの期待が一気に高まったのも葛藤を大きくした。同年11月。イベントで世界記録保持者ウサイン・ボルト氏と共演した。こう尋ねた。

小池 期待、プレッシャーとうまく付き合っていける考え方、時間の使い方はありますか?

ボルト氏の答えは、こうだった。

ボルト氏 周りの方、メディアが期待を寄せてくれるゆえにプレッシャーがかかるわけだが、自分自身が自分に懸けるプレッシャーが一番でなければならない。それゆえ集中力を高め、自分が与えるプレッシャーに勝つ努力をしてきた。

その言葉は胸に響いた。特に「自分自身が自分に懸けるプレッシャーが一番」。周囲の期待、重圧よりも、努力に裏打ちされた自分への期待の大きければ、それを打ち消すことができる。今は目の前の事に集中できている。昨季の腰痛が癒え、今季初戦となった出雲陸上の後には「現実的な目標としてメダルと口にできるようになった」と言った。日本選手権も予選、準決勝と満足の走りではなかったが、決勝では代表権を決定的にした。

 

◆選考方法 1位の多田、3位の山県はともに参加標準記録(10秒05)を突破済みで、「3位以内」に入ったため2人は代表に決定。2位のデーデーは参加標準記録をクリアできておらず、世界ランキングでの出場資格にも遠く届いていない。そのため日本選手権で「3位以内」には入ったが、100メートル代表にはなれない。残る1枠は参加標準記録を突破した選手の中から、日本選手権の上位順で選ばれるルール。そのため4位の小池が決定的で、1種目最大3人までの条件から、5位の桐生、6位のサニブラウンは落選となる。

男子400メートルリレーについては、日本選手権が選考上「最重要選考競技会」と位置付けられている。100メートルの代表選手に加え、200メートルの代表選手との兼ね合いになるが、デーデーが代表入りする可能性も十分。また「特性と戦略を考慮」して選考するとされており、桐生やサニブラウンの可能性も残っている。