決勝はレーン順が勝敗を大きく分けた。

多田選手(6レーン)は自分のベストな形だった。予選から3本とも内容がいい。今まではスタートして顔を上げたところでピッチを畳みすぎて後半苦しくなった。その部分が、今回は前半の走りをうまく設定したことでかなり影に隠れていた。レーンの並びで同じくスタートが得意な山県選手(4レーン)との間に桐生選手(5レーン)を挟んでいたことも好影響。練習でやってきたことが確信に変わっただろう。ここから落ち着いて長所を伸ばせば、間違いなく9秒台で走れる。

山県選手は後半に珍しく固くなった。多田選手があれほど視界にいること、左隣で後半が得意なサニブラウン選手(3レーン)の影に意識があったかもしれない。ここもレーンが変わっていれば、どうなっていたかなと思う。

小池選手は、隣に9秒台がいない8レーン。周りを見ることがない、ベストのレーンだった。後半に出てくる、彼の強みが出た。

一方で桐生選手は、スタートが得意な多田、山県の両選手に挟まれてワンテンポ遅れたと言わざるをえない。アキレス腱(けん)痛もあったかもしれないが、5月のフライングも影響していたと思う。私の経験上、フライングするとそのシーズンは思い切って出られなくなる。サニブラウン選手は、予選で空中で足を回しているような感じで推進力が乗り切らなかったが、流れの中で修正してきた。後半はしっかりきているので、200メートルはいいレースになるだろう。(100メートル元日本記録保持者)