「新カツオ」が五輪本番プールで跳ねた。自由形のエース、「カツオ」こと松元克央(24=セントラルスポーツ)が、自身の持つ日本記録を0秒48更新する1分44秒65で優勝。東京五輪用に新設されたプールで、日本新第1号をたたき出した。

元五輪平泳ぎ代表で中京大教授の高橋繁浩氏は、前半から飛び出した自在のレースプランを評価して金メダルを期待した。

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ライバルたちの後方から「金メダルを狙う」ではなく、並ぶライバルたちから一歩抜け出して「金メダルをとる」へ、頂点に立つ松元が見えた。日本新も素晴らしいが、驚いたのは前半100メートル。これまでの日本記録より0・76秒も早かった。もともと、後半が強いタイプ。前半から飛び出したことが、公約通り44秒台の日本新につながった。

持ち味は大きな泳ぎ。1ストロークの距離を伸ばしたことで成長した。スピードを落とさずストローク数を減らせば、消耗も少なくなる。陸上競技で歩幅を伸ばすのと同じ。最初の50メートルは26ストローク、2位柳本は31、萩野は29と、泳ぎの大きさで他を引き離す。

これまではその大きな泳ぎで前半力を残し、終盤にスパートするのが松元のレースだった。ところが、この日は余力を持ちながらも前半を早く入った。自在のプランが組めることは、大きな武器になる。

400メートルが得意なラプシス(リトアニア)らライバルには持久型が多いが、スピードなら松元が上。そのアドバンテージをどこで生かすか。前半飛び出すか、ラストでまくるか。自在の足を持っていれば、ライバルの状況を見て戦略を立てることができる。世界のトップが、このラップにプレッシャーを感じるはずだ。

レース前、鈴木陽二コーチに会った。「44秒台ですか?」と聞くと「そんなところ」とニッコリ。レース後に「おめでとうございます」と言うと「なっ」と言って、また笑った。五輪本番をにらむ日本新へのレースプラン。完璧なまでに答えた松元も見事だった。

71歳と24歳の師弟。2人の頭の中には、金メダルへの「青写真」ができているはずだ。88年ソウル五輪、スタートのバサロキックを伸ばす秘策で鈴木大地を金メダルに導いた名コーチは希代の勝負師でもある。勝つための引き出しを豊富に持っている。松元も、その戦略に応えるだけの自在な泳ぎを手にした。この日の泳ぎで、東京五輪の金メダルが見えた。(84年ロサンゼルス、88年ソウル五輪平泳ぎ代表)