【光明】中学生､女子プロ…指導の喜び知って恩師の下へ／龍谷大平安・川口知哉〈3〉

龍谷大平安（京都）の師弟がこの春、立場を変えてセンバツに臨みます。原田英彦監督（62）と川口知哉コーチ（43）です。1997年夏の甲子園でエース川口は大会全6試合完投で準優勝の立役者となり、同年秋にオリックス1位でプロへ。だが結果を残せず、未勝利のまま04年に引退。その後、女子プロ野球の指導や会社の営業職で奮闘する姿を見守り続けた恩師の尽力で昨年4月、野球部コーチとして母校に戻りました。不運が続いてもまっとうな生き方を貫いた左腕が違う立場で監督を支え、平安の球史をつないでいきます。5回連載の第3話。（敬称略）

高校野球2023.02.25 11:00

堀まどか

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原田監督｢もう1回ユニホームを｣

1997年の春夏甲子園をわかせた平安（当時、龍谷大平安＝京都）のエース川口知哉は、オリックスで未勝利のまま、04年オフにユニホームを脱いだ。

プロから離れてしばらくは、家業の住宅外装業を手伝った。平安の恩師、原田英彦は川口が働く現場に幾度か足を運んだ。20代半ばで野球に区切りをつけた姿が、切なかった。

原田かわいそうな思いをさせた…もう1回ユニホームを着せたい…。そう思いながら、川口が働いているのを見ていました。

恩師の思いとは裏腹、当時の川口は身も心も野球に背を向けていた。戦力外通告を受ける1年前に結婚した夫人が、身ごもっていた。家族を守らなければ、と必死だった。

川口野球も嫌いになってたんで、別に野球にすがるっていう考え方もなかったんで。

キャンプ休日に船釣りを楽しむルーキー＝1998年2月

野球から離れ、家業に没頭するうち、3年が過ぎた。そのころ、中学の後輩から、自身が監督を務めるチームを教えてもらえないか、と声がかかった。それが川口が野球と再びつながる転機となった。

川口指導経験なんてないですけど、この子が伸びるためにはこういうことをした方がいいんだな、ということがぱっとわかったんですね。この子にはこの教え方が合うんちゃうかな、という見方がまず、できた。そうしたら、教えることで結果が出始めた。打つ方でもそうですし、投げ方1つでもそうですけど、ある程度頭の中に残っているものがあった。プロの7年でいろんなコーチからいろんなこと言われてきたじゃないですか。それが残っていた。自分の引き出しの中に全部入ってるな、みたいな感じやったんです。

プロ7年で得た｢観察力｣

思わぬ気付きだった。

川口教えていくと、ああ、あのときにこの人がこう言うてはったな。この子に合うかもしれんな、みたいな発想が生まれて。

コーチが代わるたび、違うことを教えられたプロでの7年。プロ野球選手・川口の成長にはつながらなかった助言が、それでも血となり肉となり、指導者・川口を支えようとしていた。

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編集委員

堀まどかMadoka Hori

古代の王国トロイを発見したシュリーマンにあこがれ、考古学者を目指して西洋史学科に入学するも、発掘現場の過酷な環境に耐えられないと自主判断し、早々と断念。
似ても似つかない仕事に就き、複数のプロ野球球団、アマ野球、宝塚歌劇団、映画などを担当。
トロイの木馬発見！とまではいかなくても、いくつかの後世に残したい出来事に出会いました。それらを記事として書き残すことで、のちの人々が知ってくれたらありがたいな、と思う毎日です。