野村弘樹のガッツポーズでM9点灯 ファンの思いを緊急連載/連載16

横浜DeNAベイスターズの1998年(平10)以来となる優勝を祈念する企画連載の第16弾は、マジック点灯です。9月24日、横浜大洋ホエールズ時代からチームを支えてきた左腕エース野村弘樹が、完投で13勝目を挙げてマジック9を灯しました。勝利の瞬間、珍しく派手なガッツポーズをするなど、待ち焦がれた瞬間を体いっぱいに表現しました。マジック点灯と同時に日刊スポーツでは「スタンバイ Vスターズ」と題した連載もスタート。前回優勝から38年もの間、待ち焦がれたファンの思いを記事にしました。

プロ野球

4点リードで大魔神

権藤博監督が、ゆっくりとベンチを出ました。9月23日、2位中日との直接対決は6-2と4点リードで最終回を迎えました。

「ピッチャー佐々木」

セーブがつかない場面でクローザー佐々木主浩を投入するのは、このシーズンで初めてのことでした。残り18試合。いよいよラストスパートに入ったことを意味していました。

佐々木は、いつになく緊張した面持ちでマウンドに上がりました。直球とフォークボールの2種類で勝負する佐々木は、いつも軽口のように「3点以上のリードがあればカーブを投げるよ」と言っていました。しかし、その気配はありませんでした。直球6球、そしてフォークボールを4球と、1点差と同じような緊張感あふれる投球で、ゴメスを二ゴロ、山崎武司を三振、立浪和義を遊ゴロに抑えました。

「こうなったら個人記録なんて関係ない。チームのためだよ。誰に言われなくたって分かっているんだ」

試合を締めた佐々木は、真剣な表情でそう言いました。

試合を締めた佐々木(右)は権藤監督とハイタッチ

試合を締めた佐々木(右)は権藤監督とハイタッチ

権藤監督にとっても、感慨ある継投でした。

「走者を出したら(佐々木に)代えようなんて、妙なことを考えるのはイヤだったからな。ここまできたら、勝てる試合は全部出すつもりだ。佐々木を出せることが、うちの勝ちパターンなんだよ」

攻撃でも、1回裏に先頭の石井琢朗が四球で出塁すると、2番波留敏夫にバントで走者を送らせました。常々「初回のバントは打線の流れを寸断するだけ」と避けていましたが、短期決戦ともいえるラストスパートは違っていました。これもまた、優勝が目前に迫ったと感じるさい配でした。

野村がヘルメットを…

翌24日は先発の野村弘樹が攻守で躍動しました。6回には左前打で出塁すると、波留の適時打で二塁からホームを突きました。

7回にも左前打で出塁し、石井琢の二塁打でホームを駆け抜けると、ヘルメットを投げるパフォーマンスを見せました。

本業の投球では、6点リードの9回2死二塁から中日山口を空振り三振に打ち取ると、派手にガッツポーズをして、大きな声を上げました。

完投で13勝目を挙げてM9を点灯させた野村

完投で13勝目を挙げてM9を点灯させた野村

普段の野村は、過度なパフォーマンスをしません。しかし、この日は特別な心境だったのでしょう。なぜなら、この勝利でベイスターズにマジック9が点灯したのです。横浜大洋ホエールズ時代に入団した左腕エースにとっても、初めての体験でした。

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編集委員

飯島智則Tomonori iijima

Kanagawa

1969年(昭44)生まれ。横浜出身。
93年に入社し、プロ野球の横浜(現DeNA)、巨人、大リーグ、NPBなどを担当した。著書「松井秀喜 メジャーにかがやく55番」「イップスは治る!」「イップスの乗り越え方」(企画構成)。
日本イップス協会認定トレーナー、日本スポーツマンシップ協会認定コーチ、スポーツ医学検定2級。流通経大の「ジャーナリスト講座」で学生の指導もしている。