【金足農を追う】準V後の低迷、いじめ…再び甲子園に戻れるか?/毎週水曜連載〈1〉

金足農業高校(秋田)に追い風が吹き始めています。

2018年(平30)、吉田輝星投手(オリックス)を軸に甲子園で準優勝し、日本全国に旋風を巻き起こしてから6年が経ちました。

この間、県内でも上位に進めない年が続き、2022年(令4)には部内のいじめ問題が表面化し、対外試合禁止の処分も受けました。

逆風が吹く中、再発防止と部内改革を目的とした「未来創造プロジェクト」に取り組み、野球部の理念やスローガンを決め、練習や選手育成の方法まで、すべてを見直してきました。

そして昨年、秋季大会では23年ぶりに秋田大会を制し、東北大会に進みました。生まれ変わった姿で甲子園に戻り、再び旋風を起こす日も遠くないでしょう。

雑草軍団の挑戦を「金足農、旋風再び」と題した長期連載でリポートします。

高校野球

◆秋田県立金足農業高校1928年(昭3)農業を主とする産業教育を担う高校として創立。生活資源科、環境土木科、食品流通科、造園緑地科、生活科学科の5学科がある。野球部は32年創部。甲子園は春3度、夏6度。初出場は1984年(昭59)センバツで、その夏は4強に進出し、準決勝で桑田真澄、清原和博を擁するPL学園と接戦を演じた。夏の甲子園100回大会の2018年(平30)はエース吉田輝星(現オリックス)を軸に準優勝。主なOBはヤクルト石山泰稚、小野和幸(元中日など)足利豊(元ダイエーなど)佐川潔(元巨人など)。学校所在地は秋田市金足追分字海老穴102の4。

冬に大きく成長

先発マウンドに上がった吉田大輝(2年)は、大きく息をはいてから第1球を投じた。

3月27日、金足農は春休みに恒例の関東遠征で、埼玉・川越工グラウンドに来ていた。強い春風が吹きつける中、今シーズン最初の対外試合に臨んだ

大輝は初登板の力みもあって先頭打者に死球を与えたが、次打者のバントを軽快にさばき、後続を断った。ピンチに連続三振を奪うなど、3回を投げて1失点。上々の初登板だった。

しかし、本人は納得できない様子で振り返った。

「風が強かったのと、マウンドに合わせられなくて、いつものようには投げられなかった。立ち上がりは、これからの課題です」

冬を越えて体も大きくなった吉田大輝

冬を越えて体も大きくなった吉田大輝

マウンドに立つ姿は、昨年よりも大きく見えた。特に下半身が、太く、たくましくなっていた。

「体重も増えたんです。昨年は80キロあるかどうかでしたが、今は85キロあります。この冬は走り込み、トレーニングとか、結構きつい練習もみんなで乗り越えました」

関東遠征はちょうど甲子園でセンバツ大会が行われている時期で、27日には秋田・天王中の同級生、伊藤英司が属する青森山田の試合も行われていた。伊藤は京都国際との1回戦でサヨナラ安打を放っている。

大輝にとって甲子園は、兄の輝星が活躍した2018年に観戦して、なじんだ場所である。しかし、自身が高校球児となった今、その存在は変わってきた。

「兄さんの時は、憧れが強いだけでしたけど、昨年の夏は仙台育英の登藤さん(海優史=3年)、このセンバツでは英司と、同じ中学出身の選手が甲子園で活躍していて刺激になっています。ライバル心がすごい出てきて、夏は僕らも絶対に甲子園に行って、倒すぞって気持ちです」

笑顔でキャッチャーに声をかける吉田大輝

笑顔でキャッチャーに声をかける吉田大輝

昨年は、23年ぶりに秋季秋田大会で優勝した。県を制するのは、甲子園で準優勝した2018年夏以来だった。

東北大会の準々決勝で学法石川(福島)に敗れ、センバツ出場はならなかったが、甲子園まであと1歩のところまで進んだ。しかし、大輝は表情を引き締めて語った。

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編集委員

飯島智則Tomonori iijima

Kanagawa

1969年(昭44)生まれ。横浜出身。
93年に入社し、プロ野球の横浜(現DeNA)、巨人、大リーグ、NPBなどを担当した。著書「松井秀喜 メジャーにかがやく55番」「イップスは治る!」「イップスの乗り越え方」(企画構成)。
日本イップス協会認定トレーナー、日本スポーツマンシップ協会認定コーチ、スポーツ医学検定2級。流通経大の「ジャーナリスト講座」で学生の指導もしている。