【沢村賞の枕詞】徳俵で重なった矜持 山本由伸と42年前の西本聖/物語のあるデータ

どうしても負けられない試合がある。オリックスの山本由伸投手(25)でいえば、日本シリーズ第6戦の先発がそうだった。この試合を落とせば、阪神の日本一が決まる。メジャー挑戦の思いは胸に、国内最後になるかもしれないマウンドへ。未勝利のままでは終われない。重圧のかかる中、138球を投げ抜き、1失点で完投した。そんな山本の姿に、81年の同シリーズで巨人を日本一に導いた西本聖投手が重なった。

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山本の顔はそう語っていた。「えっ、あれが…」。

156キロの高め速球が捉えられ、直後に右翼席に吸い込まれた。2回1死後、阪神ノイジーの放った先制のソロアーチだった。動揺は隠せない。なおも長短打を浴び、死球も絡んで2死満塁とピンチが続く。

ここで迎えたのが、近本だった。1本出れば勝利は遠のく。初球はカーブで入った。見逃しストライク。2球目は一転、力勝負に出て速球がファウルに。3球目も速球を続けてボール。カウント1-2となった4球目、フォークを低めに落とすと、好調男のバットが空を切った。

緩急を駆使して窮地を脱した。「変化球もいい球が多かった。いい感じに1試合を通じ、バランスが取れた」。山本が振り返った。9安打を浴び、3回以降も走者を出しながら、追加点は与えない。奪った三振は14。日本シリーズ最多記録を更新した。5-1の完投勝ちは、シリーズ5戦目にしての初勝利になった。

打たれても打たれても、得点は与えない。42年前の西本がそうだった。

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徳島・吉野川市出身。1974年入社。
プロ野球、アマチュア野球と幅広く取材を続けてきた。シーズンオフには、だじゃれを駆使しながら意外なデータやエピソードを紹介する連載「ヨネちゃんのおシャレ野球学」を執筆。
春夏甲子園ではコラム「ヨネタニーズ・ファイル」を担当した。