広島「単打の4番」上本崇司 持ち場不問の職人はいつの時代も「オンリーワンの選手」

広島に今夏、あっと驚く4番打者が出現しました。上本崇司選手(33)です。開幕2戦目に代打でスタートした男が、7月22日には4番の座につきました。内外野をこなすユーティリティープレーヤーは、打っても4番を含め8つの打順に入りました。そんな上本の姿に、V9時代の巨人柴田勲を思い出しました。同じく8つの打順を打ち、ONの間に入って4番も務めました。ときに思いもしない4番が出現し、苦境のチームにカツを入れます。

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「西川龍馬、早く帰って来てくれ」

上本が4番に入って8試合目、8月2日のDeNA戦だった。1回に先制の右前適時打、8回にはダメ押しのホームを踏む左前打とした。ヒーローインタビューでは「僕に4番の重圧とか知ったこっちゃない。僕は僕らしく」と話し、さらにこう付け加えた。

「西川龍馬、早く帰って来てくれ。君がいないと本当にやばいです」。主砲の復帰を願うセリフを吐いた。

お立ち台で森翔平(左)と勝利を喜ぶ=2023年8月2日

お立ち台で森翔平(左)と勝利を喜ぶ=2023年8月2日

西川が右脇腹の肉離れで7月12日に登録を抹消された。4番不在。デビットソン、松山竜平、菊池涼介が順に代役を務め、4人目として上本が指名された。新井貴浩監督がこう話していた。

「(上本は)チャンスメークもできるし、つなげることもできる。勝負強さもあるんで。まっちゃん(松山)を『とっておき』にしたいのもあって。いろんな打順をこなせるオンリーワンの選手だと思うんです、彼は」

巨人タイラー・ビーディから左越えソロ本塁打=2023年4月30日

巨人タイラー・ビーディから左越えソロ本塁打=2023年4月30日

上本は西川が8月8日に復帰するまでの12試合に4番として出場した。成績は2割6分7厘、打点3、本塁打0。前半戦終了時の2割6分3厘をわずかに上回った。本塁打はなく、放った計12安打すべて単打というのが上本らしい。

ON分断「書き間違えた以外に考えられない」

巨人の柴田は、現役生活20年間でたった1試合だけ4番に入っていた。69年7月3日の阪神戦。その第1打席で2ランを放った。

試合前、巨人のメンバー表を見た阪神後藤次男監督は、こう話したという。「こりゃ書き間違えた以外に考えられないよ」。3番長嶋茂雄、4番王貞治。前の試合まで42試合も続いていた2人の並びが突然、分断された。

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徳島・吉野川市出身。1974年入社。
プロ野球、アマチュア野球と幅広く取材を続けてきた。シーズンオフには、だじゃれを駆使しながら意外なデータやエピソードを紹介する連載「ヨネちゃんのおシャレ野球学」を執筆。
春夏甲子園ではコラム「ヨネタニーズ・ファイル」を担当した。