なぜ親たちは我が子の被害を黙認するのか/指導者必読の連載〈5〉

スポーツ指導の現場では、なぜ体罰や暴言が続くのでしょうか? 今年に入ってからも体罰によって指導者が処分される事件が後を絶たず、暴行により逮捕される事案もありました。大阪市立桜宮高のバスケットボール部主将が、顧問を勤める教員の体罰を苦に自殺をしてから10年が過ぎ、4月25日には、スポーツ5団体が「スポーツ界における暴力行為根絶宣言」を表明してから10年という節目を迎えます。指導に携わるさまざまな人々の証言から、あらためてスポーツ指導を考えます。第5回のテーマは保護者です。わが子に対する体罰や暴言を容認する保護者がいるのはなぜか?

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「うちの子はシバいてくれていいから、鍛えてほしい」

「うちは厳しく育てているから、少しぐらい殴られても耐えられる」

今回の取材では、こんなセリフを何度も聞いた。

スポーツ指導者の勉強会に参加したときのこと。穏やかな言葉遣いで、理論的な指導をすると定評のあるコーチが、雑談になったら「息子の監督には、ぶっ飛ばしても、蹴っ飛ばしても構わないと言っているんですよ」と笑っていた。

体罰や暴言に対する世間の目が厳しくなったので、コーチとしては用いない。しかし、本音の部分では「有効な手段」だと考えている。だから、わが子には、その有効な手段を用いて、たくましく育ってほしい。そういう心理が読み取れる。

暴言を繰り返す指導者は、注意を受けると「生徒や保護者は納得している」と主張することが多い。

関東近郊の県で指導者委員長を務めるD氏も、同様のケースに対したことがある。

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編集委員

飯島智則Tomonori iijima

Kanagawa

1969年(昭44)生まれ。横浜出身。
93年に入社し、プロ野球の横浜(現DeNA)、巨人、大リーグ、NPBなどを担当した。著書「松井秀喜 メジャーにかがやく55番」「イップスは治る!」「イップスの乗り越え方」(企画構成)。
日本イップス協会認定トレーナー、日本スポーツマンシップ協会認定コーチ、スポーツ医学検定2級。流通経大の「ジャーナリスト講座」で学生の指導もしている。