一度も手を上げずに日本一4度、高校バスケの名将は/指導者必読の連載〈9〉

スポーツ指導の現場では、なぜ体罰や暴言が続くのでしょうか? 今年に入ってからも体罰によって指導者が処分される事件が後を絶たず、暴行により逮捕される事案もありました。大阪市立桜宮高のバスケットボール部主将が、顧問を勤める教員の体罰を苦に自殺をしてから10年が過ぎ、4月25日には、スポーツ5団体が「スポーツ界における暴力行為根絶宣言」を表明してから10年という節目を迎えます。指導に携わるさまざまな人々の証言から、あらためてスポーツ指導を考えます。第9回は、昭和時代から体罰を用いなかった高校バスケットボール界の名将から話を聞きます。

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星澤純一氏は(72)は、スポーツ界の体罰問題をどう見ているだろうか?

どうしても意見を聞きたくて、知人を介して連絡を取り、横浜市内の喫茶店で会った。

彼は「体罰をしない指導者」として有名だった。1度も生徒に手を上げることなく、神奈川県立の金沢総合高(2011年までは富岡高)女子バスケットボール部を4度の日本一に導いた。インターハイ優勝が3度、ベスト4が10度。ウインターカップは優勝が1度、ベスト4が7度。全国に誇る強豪校である。

近年でこそ、体罰を用いない指導者も珍しくない。だが、星澤氏が教員になったのは1977年、昭和52年である。スポーツ界では、猛練習や体罰が効果的な指導と考えられていた。練習中の水分補給は疲労を増幅させると、禁止されていたような時代である。

星澤氏 顧問になった直後に強豪校に指導を勉強しに行ったら、そこの監督さんに「選手をたたけばたたくほど強くなる」と言われましたね。当時は、多くのチームで体罰を伴う指導が行われていました。

同氏の信念、指導法は後述に回し、まずは現状をどう見ているか聞いた。

時代は変わり、体罰や暴言に対する認識はかつてないほど厳しい。処分も厳格になり、暴行事件として処分されるケースもある。それでも、なぜ指導者は体罰を使ってしまうのか?

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編集委員

飯島智則Tomonori iijima

Kanagawa

1969年(昭44)生まれ。横浜出身。
93年に入社し、プロ野球の横浜(現DeNA)、巨人、大リーグ、NPBなどを担当した。著書「松井秀喜 メジャーにかがやく55番」「イップスは治る!」「イップスの乗り越え方」(企画構成)。
日本イップス協会認定トレーナー、日本スポーツマンシップ協会認定コーチ、スポーツ医学検定2級。流通経大の「ジャーナリスト講座」で学生の指導もしている。