日刊28000号の旅〈2〉潔き敗者、マラソン谷口を勝手に表彰「君に感動栄誉賞」

日刊スポーツは1946年(昭21)3月6日に第1号を発刊してから、これまで約2万8000号もの新聞を発行しています。昭和、平成、そして令和と、それぞれの時代を数多くの記事や写真、そして見出しで報じてきました。日刊スポーツプレミアムでは「日刊スポーツ28000号の旅 ~新聞78年分全部読んでみた~」と題し、日刊スポーツが報じてきた名場面を、ベテラン記者の解説とともにリバイバルします。懐かしい時代、できごとを振り返りながら、あらためてスポーツの素晴らしさやスターの魅力を見つけ出していきましょう。

第2回は、31年前の8月11日付1面を飾った「グッド・ルーザー」マラソンの谷口浩美。(内容は当時の報道に基づいています。紙面は東京本社最終版)

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WBC準決勝メキシコ戦、日本は村上の逆転サヨナラ打で劇的勝利。敗れたメキシコのギル監督は「今夜の試合は野球にとっての勝利です」という素晴らしい言葉を残した

WBC準決勝メキシコ戦、日本は村上の逆転サヨナラ打で劇的勝利。敗れたメキシコのギル監督は「今夜の試合は野球にとっての勝利です」という素晴らしい言葉を残した

WBCチェコ代表やメキシコ監督
スポーツの魅力を際立たせる「グッド・ルーザー」

スポーツにとって大切なことの1つに「いかに負けるか」がある。勝利を目指して全力を尽くすのは基本だが、勝負である以上、負ける可能性をゼロにはできない。

2023年のWBCは素晴らしい大会として人々の記憶に残るが、その要因は優勝した侍ジャパンだけではない。

初出場のチェコは、日本に敗れた後、全員でベンチの前に出て勝者に拍手を贈っていた。また、準決勝で日本にサヨナラ負けしたメキシコのベンジー・ギル監督の言葉も忘れられない。

「日本が勝ちましたが、今夜の試合は野球にとっての勝利です」

何という素晴らしい言葉なのか。

吉田正尚の同点3ラン、村上宗隆の逆転サヨナラ打。1球に、選手の一挙手一投足で手に汗を握った熱戦は、野球の魅力を世界に知らしめた一戦。まさに「野球の勝利」と言っていい。敗軍の将の言葉が、それを教えてくれた。

スポーツの世界には「グッド・ルーザー(good loser)」という言葉がある。訳せば「潔き敗者」。

勝負に臨む者は、勝利に向かって全力で挑むが、同時に敗れた時にどのような立ち居振る舞いをするか。そこまでが勝負なのだと私は考えている。

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編集委員

飯島智則Tomonori iijima

Kanagawa

1969年(昭44)生まれ。横浜出身。
93年に入社し、プロ野球の横浜(現DeNA)、巨人、大リーグ、NPBなどを担当した。著書「松井秀喜 メジャーにかがやく55番」「イップスは治る!」「イップスの乗り越え方」(企画構成)。
日本イップス協会認定トレーナー、日本スポーツマンシップ協会認定コーチ、スポーツ医学検定2級。流通経大の「ジャーナリスト講座」で学生の指導もしている。