昨年11月に敬愛する作家・伊集院静さんが亡くなった。直木賞作家として幅広いジャンルの作品を残したが、競輪への愛も熱く伝えた。


伊集院静さん
伊集院静さん

伊集院さんは毎年高松宮記念杯が行われていた、大津びわこ競輪場(廃止)でよく見かけた。ボロボロになるまで読み込んだ全国の競輪場を巡るエッセー集「夢は枯野を」を持っていくと「これはすごいね。何度も読んでくれたんだね」と手に取って、表紙の裏に“千転び、万起き”と書いてもらった。一目見ただけで挫折の多い記者の人生を察して書いたとしか思えない言葉の選択にうなるとともに、本は一生の宝物になった。

伊集院さんで一番印象に残ってるのは、ポケットの中の小銭を握りしめて車券売り場の列に並んでいる姿だった。少額でも心の底から楽しんでいる喜々とした表情は忘れられない。

「夢は枯野を」の中の一節を紹介する。

競輪は創成期まず体力と気力で戦う勝負事であった。がむしゃらにペダルを踏み、力まかせに相手をねじ伏せた。ところが自転車の力学が思わぬものを生んだ。風の抵抗と力(外にふられる力)を抑制する技術である。力まかせでは勝てない。勝つためにはそこに駆け引きや読みが必要になった。智力がなくては勝利者になれない。体力と気力と智力、これは戦士の戦いである。そして現在の競輪は高度な技術と深い洞察力がなくてはならない格闘技となった。

華麗なる文章はまねできないが、伊集院さんの競輪愛を受け継ぎ、取材を通じてその思いをファンに届けていきたい。