19年の賞金王が復活の道をこじ開けた。優勝戦は石野貴之(38=大阪)がコンマ11のスタートから逃げて、今大会初V。SG優勝は通算9度目。一時はB級落ちの危機に陥ったところから、大舞台で栄冠を勝ち取った。2着に地元の篠崎仁志、3着には守田俊介が入った。

19年の主役を張った記憶が少しずつよみがえった。石野は詰めかけたファンの声援に応えながら控えめに笑顔を見せた。

「これで改善すべきことができたとは言えないけど、少しは光が見えてきた」

コンマ11のスタート。「起こして少し様子を見た」と話しながらも、スリットから出ていった。抜群の出足、行き足は優勝戦でも生きた。パワーは優勝戦6人の中でも抜けていた。

「寺田(祥)さん、前本(泰和)さんをのぞけば、抜けていると思った」

バックに入って、さらに加速すると水面を慎重に回りながらも、徐々に優勝を確信した。

19年の賞金王は、昨年の度重なるフライングなどでリズムを崩し、プライドも自信も失いかけた。今節に入る前の昨年11月以降の勝率は、5・46と、A2級でさえ危ない状態。F休み明けで、さえないレースが続いていた。

「ここまで緊張したことはなかった。不安や自信のなさからだと思う」

これまで8度のSG優勝とは違った局面は、当地3節前の一般戦を走った経験と気持ちで乗り越えた。

「先月走ったことでペラ調整は分かっていた」

この優勝でA2級でのグランプリ出場も見えてきた。でも、気持ちを高ぶらせるのは早いと思っている。

「目指しているところだけど、今は大きなことは言えない。責任のある立場なのも分かっている。今は一生懸命、走るしかない」

SGであれ、一般戦であれ、まだ乗り越えなければならない試練はある。石野はあえて湧き上がる感動を抑え、次の戦いに向かう。【中牟田康】