ボートレース戸田に“女性初”のモーターボート1級整備士が誕生した。

その第1号となったのは篠田栞(しのだ・しおり=30)さん。7月13日に合格の知らせが届いた。「ありがとうございます。(1級を)受けるのも受かるのも(女性が)初めてだったみたい。やりがいのある仕事です」と喜び、少し照れを交えた。

7月14日現在、全国24場の整備士は222人。1級資格を持つのは73人で、1級試験の合格率は約50~60%の狭き門。その中に名を連ねた。

女性整備士で初めてモーターボート競走整備士の1級に合格した篠田栞さん
女性整備士で初めてモーターボート競走整備士の1級に合格した篠田栞さん

整備士になって、わずか4年。2級に合格し、実務3年間を経て受験資格を得る1級に挑み、見事にパスした。大整備と称されるクランクシャフト交換には、1級整備士が付き添うのは必須。仕事の幅が広がる貴重な資格を得た。

「クランクシャフトの交換は一番難しい。それで良くなるか、運次第の面もありますけど、体でいう背骨を換えて、その他もしっかり合わせる感じ。それでモーターが良くなってくれれば、すごくうれしい」。

総勢約1600人、1節で約42~52人程度が参加するボートレーサーの声に耳を傾け、現状を判断。エンジンの変調、苦戦する、または良化を目指す選手のサポートに使命感を抱く。

もともとはボートレーサー志望だった。埼玉県に生まれ育ち、学生時代に観戦したレースに感動と刺激を受けた。18歳から戸田の艇運(ボートの運搬補助など)でアルバイト。同時に半年に1度ある養成所の入所試験に挑み続けた。

「トータル、言えないくらい(笑い)。10回以上、14回くらいは受けました。3次試験まで行ったこともあったんですけど…」。何度も、何年も、ひたむきにチャレンジ。あと1歩の状況はあったが、無情にも合格通知は届かなかった。

それでも、業界への熱意を失うことなく、整備士へ転身。男性ばかりの職場で、たくましく、着実に力をつけてきた。整備課の上司、現在は事業課長の平野淑彦さんは「もちろん男女の区別はない、厳しい環境。よく頑張っていると思います」と、目を細めた。整備着や手などに無数に残る部品の汚れ、オイルの染みが、その大変さを物語る。

今後の目標にも、浮かれず、しっかり前を見据えた。「まずは部品の締め忘れがないように。最初のころ失敗したことがあって。検査員さんに気づいてもらえて助かりましたけど、それは絶対に駄目。あとはモーター勝率をできるだけ均一にできるようにしたい。その中で中間整備で(動きを)良くできたりもしたい。選手に“良くなったよ”と声をかけられるのもうれしい。あと、他のレース場に女性整備士さんがいるみたいなので、1度、会ってみたい」。

まずは初心を忘れず、基本を忠実に-。そして、公正かつ安全な上で、ファンを魅了するボートレースを正確に、誠実に支えつつ、女性整備士のパイオニアとして日々の業務に情熱を注ぐ。【窪寺伸行】