競輪で現役最年長、63歳の佐古雅俊(広島)が引退する。佐古が一流選手への階段を上っていく若手の頃、私は広島競輪場を担当していた。厳しい練習をしながら強くなっていく姿を見ていただけに、感慨深いものがある。
今期(1~6月)は成績下位による代謝制度で強制引退の対象になっていた。7日が最終日だった伊東が、43年の選手生活のラストラン。6車立てで6着に終わった。
佐古は競輪学校(現競輪選手養成所)45期生で1980年(昭55)4月に防府でデビューした。88年には青森G1全日本選抜で決勝2着に入り、その年の立川KEIRINグランプリに出場して6着だった。長年にわたってトップレーサーとして活躍し、G3も15度優勝した。中野浩一や滝沢正光、井上茂徳らビッグネームが君臨する中で、この優勝回数は誇るべき数字と言っていい。
全盛期は今でいうオールラウンダーで、まくりと追い込みを駆使して戦っていた。G1の常連だった頃に調整方法を尋ねたことがある。するとコップに水を張る例えで説明してくれた。
「いっぱいまで水を入れた後、1滴ずつ水を落として表面張力の状態にしたいんです。でも『もう1滴入る』と思って欲張ると、あふれ落ちてしまう。そんなぎりぎりでやっているが、ベストの状態にするのは難しい」
その言葉も今は懐かしい。全盛期を過ぎてからも、後輩たちの指導に熱心に取り組む姿は有名で、彼を慕う選手は多い。
今回の引退に際して、あらためて連絡を取った。
「4月に別府で1着になった後、レースに加われなくなりました。それに心臓疾患があって、これまで4度手術をした経緯があるんです。4月に検査をした時に医師から『激しい運動はしない方がいい』と言われました。実は心臓の血管を広げるためのステントが入っているんですが、普通の人が生活を送れるレベルのサイズ。もう少し太いサイズのものを入れておけば、まだ現役で頑張れたかもしれない」
そう言って、最後は笑っていた。
記憶に残るレースも聞いてみた。
「最後のレースと、全日本選抜の決勝2着。中野浩一さんが優勝して、天下を取れなかった悔しさが残った」
今後は広島競輪の関連職員として競輪に携わる予定だという。これまで3502度走って403勝。通算獲得賞金は9億2780万3844円になる。一時代を築いた名選手がバンクを去る時がやって来たが、やはり名残惜しい。43年間の現役生活、本当にお疲れさまでした。【山田敏明】