3人しかいないガールズ300勝レーサーの1人、山原さくら(27=高知)が復帰に向けて精力的に練習をこなしている。女性特有の病気で、昨年11月の松山ナイターを最後に長期欠場。復帰戦と定めていた6日からの松山ミッドナイトは新型コロナウイルス感染拡大防止のため、中止となった。次走は未定で復活へ爪を研ぐ日々。復帰を前に「さくらは元気です!」とファンにアピールした。【取材・構成=村上正洋】

山原さくらからファンへのメッセージ
山原さくらからファンへのメッセージ

ガールズ300勝レーサー
ガールズ300勝レーサー

2週間前から兆候はあった。夜中に腹痛に襲われ、のたうち回った。そのときはひどい生理痛なんだと思った。


ガールズケイリングランプリ(GP)トライアル出走のため、前検前日の11月17日に小倉に入った。同期で仲良しの田中まいと楽しい食事を済ませ、その帰り道で再び腹痛。ホテルに戻っても痛みは治まるどころか、嘔吐(おうと)もひどくなった。


そのまま救急搬送された病院で「卵巣嚢腫茎捻転(らんそうのうしゅけいねんてん)」と診断された。もちろん、レースは欠場した。


※卵巣嚢腫茎捻転(らんそうのうしゅけいねんてん) 卵巣に腫瘍(卵巣嚢腫)が発生し、子宮とつながっている部分がねじれている状態の病気。激しい腹痛に嘔吐(おうと)、下痢などの症状がある。


山原 女性なのに、そういう病気に関しては全く無知で。いろんなショックが交じってその夜はたくさん泣きました。バケツ1杯分くらいの涙が流れたと思います(笑い)。


今となっては笑顔で話せるが、地元の高知とともに練習の拠点を置く小倉での大レースを走れなかったことへの悔い、病との闘い、競輪選手としての将来への不安などに押しつぶされた一夜になった。


それでも、腹筋にメスを入れる開腹手術を避け、腹腔(ふくくう)鏡手術を施してくれる病院に転院。緊急手術は無事に成功した。


山原 高知から駆けつけてくれた母には「開腹手術したときは、選手を引退させるつもりだった」と後で言われました。


幸い、術後の経過も良く、地元に戻って検査入院。


山原 入院中も散歩とか、軽いスクワットとか体は動かしていましたね。退院したらすぐ(自転車に)乗りたいと思って、3月くらいには復帰できるかなって…。


医師からはレース復帰には3カ月は様子見が必要とくぎを刺されていた。練習を再開して、それを思い知る。


山原 日常生活は普通にできる。自転車にも普通に乗れる。でも、腹圧をかけてもがくと患部はもちろん、おなかのあちこちが痛くなって…。どうすればいいか分からなくなった。


それでも、乗らねばと思って練習を再開すると腹痛。それの繰り返しだった。元気なはずなのに、練習してはいけないジレンマに悩んだ。本格的に練習ができるようになったのは3月下旬。4月をみっちり練習期間に充てて、5月からの復帰を目指した。


ダッシュの感触も良くなって自信を深めたころ、山原を恐怖が襲う。6カ月、レースから離れた選手には走行能力調査が行われる。1キロタイムトライアル(独走)だ。


山原 独走が何より嫌いで、デビューして7年、1回もやってません。練習のノリでやってみるかと言われても断固拒否していました。新型コロナのパニックで能力調査をしなきゃいけないことがばれないかなと思ったけど、しっかり支部長から言われて(苦笑)。街道練習中にも独走のことを思ったら足が震えて、自転車からうまく降りられず、右膝をすりむいたほど。


それほど嫌で嫌でたまらなかった独走も「計ってみたら自己ベストに近いタイムが出ました」と、ぺろっと舌を出した。


復帰に向けてバンク練習する山原さくら(左から2人目)
復帰に向けてバンク練習する山原さくら(左から2人目)

現在の目標を尋ねると「復帰戦を無事、終えること」というささやかなものだった。


山原 練習でどんなに良くても、どんなにタイムが出ていても、レースでしか分からないものがある。追走技術や車間の取り方、レース勘も。復帰するからには予選で人気になったらそれに応えたいし、優勝も狙いたい。不安はあるけど、今はそのための準備をしています。


ガールズケイリンコレクション、フェスティバル、GPなど、大レースへの復帰が今後のテーマだ。ただ、長期欠場のため、基準となる出走本数が足りず大レース復帰は来年になりそうだ。


山原 大きいレースは今は明確には見えません。でも、その中なら、昨年走れなかった小倉(ガールズケイリンGPトライアル)を走りたい。ずっと練習でお世話になっているバンクで恩返しできるように。


小倉は同期の市橋司優人の誘いや、イベントに呼ばれた縁で練習するようになった。


山原 初めて練習させてもらったとき、ウエルカム感をすごく感じて居心地が良かったですね。初めて会った人たちなのに、そうじゃない感じでした。ドームで天候に練習メニューが左右されないところもいいですね。


新型コロナウイルス感染を避けるため、今は家と街道練習と高知バンクの3カ所を循環する毎日。小倉に出稽古に行けないのがもどかしい。デビュー以来、山原家を大黒柱として支えてきたが「今はニートなのでどこにも出ずに引きこもってます(苦笑)」。


コロナ騒動が落ち着き、山原が小倉で存分に練習ができるようになったころ、大レースで本来の山原さくらが見られそうだ。


◆ファンの皆さまへ 山原さくらです。毎日当たり前に開催されていた競輪が無観客レースになり、そして中止になるところが増えて、本当に残念に思います。まさかこんな日が来るなんて、想像もしていませんでしたよね。日に日に状況は不安定になっていますが、1人1人が意識して、みんなで協力して頑張っていきましょう。私も新型コロナウイルス対策と復帰戦に向けて必死に頑張っています。いつかまた、競輪場で迫力あるレースをお客様に見ていただける日が、早く来ることを願っています。