<第90回箱根駅伝>◇3日◇復路◇箱根-東京(5区間109・9キロ)

 東洋大が2年ぶり4度目の総合優勝を果たした。ライバル駒大に59秒差をつけて復路をスタート。競り合いが予想される中、各区間でライバルを引き離し3区で区間賞を獲得。4分34秒の大差をつけ、5時間25分38秒の復路新記録を樹立した。総合タイム10時間52分51秒も歴代2位の好タイム。駒大の年度3冠を阻止し、完全Vで王座に返り咲いた。

 前日、花の2区を走った兄の勇馬に、7区のスタートラインに臨む服部弾馬(1年)は左腕を差し出した。「その1秒を削り出せ」。チームスローガンを書いてもらった。高校時代から新潟の実家を離れ、異郷の地で歩む二人三脚の陸上人生。午(うま)年を迎えるにあたり、昨年大みそかには「馬が活躍しないといけないな」と誓い合った。兄がまだ達成しない堂々の区間賞。「ありがとう」と握手しようと手を差し伸べた時、兄は涙をボロボロ流した。「うるっときました。でもまだ泣くのは早いと思った」。たくましいルーキーが兄とともに、王者の看板を背負う。

 「正直、怖かった」と9区の上村和生(2年)は言う。何せ学生3大駅伝は初出場。書店に並ぶ箱根駅伝の各種ガイド本の選手紹介にも、名を連ねていない。そんな無名の2年生が、駒大のエース窪田と同一区間に大抜てきされた。並ばれては勝ち目はない。せめて2分以上の貯金が欲しい。ところが仲間は頼もしかった。自分の前に3分40秒ものアドバンテージをプレゼントしてくれた。「余裕を持って入れました。設定タイム(1時間9分30秒)も切れて来年につながりました」。20年東京五輪に関する出場選手アンケートに「目指さない」「実力的に難しいから」「同年代の選手が活躍する姿を見に行きたい」と素直に書きしるした2年生も、優勝に大きく貢献した。

 復路には、補欠で控える駅伝経験豊富な上級生選手の投入も予想された。だがこの日、日体大と駒大の3人など、各校が選手交代をする中、酒井俊幸監督(37)は昨年末の区間エントリーから復路には手をつけなかった。育成しながら勝つ。それも選手層の厚さがあってこそできる。「うちの9、10番目の選手は7、8番目の選手と変わらない。今回もギリギリの状況で入れた選手、外れた選手がいます」。常勝軍団の宿命を背負う酒井監督は、胸を張ってそう言った。