青学大の原晋監督は陸上界の常識にとらわれず、独自路線でチームを連覇に導いた。陸上界を盛り上げるため、批判を恐れずメディアに積極的に出て発言。チームでは体育会特有の縦割り組織も否定し、組織力を高めるとともに選手の自主性を育てた。そして、体幹を鍛える「青トレ」で走力を強化。自らの信念に裏打ちされた原改革で、昨年の「ワクワク大作戦」に続く「ハッピー大作戦」を完結させた。

 異端を恐れない。原監督は昨年から60回以上の講演会をこなした。ゴルフ雑誌に連載を持ち、ファッション誌にも登場し、自著本も3冊出版。テレビもワイドショーも含め多数出演した。陸上界の人間から「青学は浮かれている」との声も耳に入ったが気にしない。

 原監督 ぼくはファーストペンギン。最初にやる人はたたかれますから。

 ペンギンは群れで行動する。その中で魚を取るため、1番に海に飛び込む勇気あるものをファーストペンギンという。批判に惑わされることはなかった。

 ユニークな言葉で広く陸上をアピールする。今回の箱根は「ハッピー大作戦」と銘打った。幸福度を表すハッピー指数でチーム状態を表し、往路後には「100%です」。そして、連覇を果たしたこの日は「300%に上がりました」とリップサービスしてみせた。

 メディアに出続ける裏にはポリシーがある。神野主将は「野球、サッカーに比べると陸上の注目度は落ちる。盛り上げることで、子供たちに陸上を身近に感じさせている」と監督の思いを代弁する。昨年末には大相撲初場所のゲスト解説も引き受けた。負けたらたたかれることは覚悟の上。だからこそ、監督就任の04年以来、チーム組織、練習内容でも常識に挑んできた。

 学生寮の掃除当番は1年生だけではない。4年生を含めた全員が担当する。「4年生には“いばるな”と言っている。掃除など嫌なことは進んでやる。それがお兄ちゃんの役目」と原監督。一部の大学では4年生が一番風呂に入り、付け人を与えるところもあるが、4年生への優遇はない。

 全体ミーティングでも「1年生だろうが、正しいと思ったことは言いなさい」と学年、実力は関係なく自由に発言させる。下級生が上級生に意見を言うことは珍しくない。体育会の問答無用な上下関係は排除。画一的な指導ではなく、2年前からは独自の体幹トレーニング「青トレ」を導入した。柔軟で自由な発想が組織を活性化。選手に自立心を植え付け、4年生主導の連覇にもつながった。

 アンカーを待つゴール前に、選手たちが並ぶ。原監督が運営管理車から降りてゴールに向かうと、選手たちは「ススム(晋)」コールで喜びを表現。厳格な教育者がそろう陸上界では異例の光景が、青学大の「非常識」を象徴する。

 「今年勝って初めて陸上方針が理解されると思っていた。陸上界を明るく、未来ある組織にしていきたい」。大きな意義ある連覇となった。【田口潤】

 ◆原晋(はら・すすむ)1967年(昭42)3月8日、広島県三原市生まれ。中学で陸上を始め、世羅高3年で全国高校駅伝準優勝。中京大に進学し、3年のインカレ5000メートル3位。89年中国電力陸上部創設とともに入社したが、95年に引退した。04年4月に青学大陸上部監督に就任。09年大会で、33年ぶりに箱根駅伝出場に導く。昨年は就任11年目で総合初優勝。176センチ、81キロ。