8月の世界選手権(ロンドン)男子100メートルで代表から落選した桐生祥秀(21=東洋大)が力強く再出発した。追い風0・6メートルの条件下、10秒05の大会新で4位に終わった日本選手権後初レースを制した。大台に乗る10度目の10秒0台で、自身が持つ日本人最多回数も更新。失意の日々から気持ちを切り替えて、世界選手権の400メートルリレーメンバー入りへ、実力を証明した。

 桐生に笑顔が戻った。アゲアゲな音楽が流れる独特な空気の会場。楽しんで100メートルを駆け抜けた。中盤から一気に伸びて、タイムは10秒05。10秒0台は今季4度目ながら、失格を含め11レースぶりだった。「日本選手権でいい記録が出せなかった。取り返したかった。また9秒台を狙いたい」と自信もよみがえった。

 4位だった日本選手権。取材後、号泣した。その後、1週間は失意のどん底だった。グラウンドに出ても練習する気すらおきない。「何を目標にすれば…」。体を動かさず、すぐ寮へ帰った時もあった。ただ次第に家族、友人、応援してくれた人の声や顔が頭に浮かび、吹っ切れた。

 7月に入った、ある日だった。真夏の日差しが照り付けるグラウンド。ひたすらに走る桐生がいた。午後1時から3時間半。ひたすら50メートルを走っていた。その数は70本に及んだ。「何も考えずに走っていた」とフォームも体への負担も関係ない。がむしゃらに走ったのは京都・洛南高の時以来だった。気持ちは原点に返った。

 桐生 どんなにボロクソ言われても、3年後見ておけよとの気持ちが大きい。

 世界選手権の400メートルリレーメンバー入りにも大きなアピールになった。失意を乗り越え、桐生はまた強くなる。【上田悠太】