23日に国立競技場で行われるセイコー・ゴールデングランプリの注目選手を特集する「国立を駆ける」の第3回は、男子100メートルの山県亮太(セイコー)。自己ベストとなる10秒00を2度出している28歳は、約1年3カ月ぶりのレースに挑む。過去に何度も故障を繰り返し、それを糧に強さを増した。アクシデントが続いた昨季の試練を、また一皮むける貴重な機会とし、「10秒の壁」を突き抜ける。

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「僕は一線で走れなくなったら、現役を続けることは考えていないです」

基本的には誰しも訪れる時-。その物差しを、こう山県は迷いなく口にした。

今は苦難に立ち向かい、勝負の時を迎えている。昨年は腰痛、肺気胸、また右足首靱帯(じんたい)断裂と負の連鎖が続いた。2度目の10秒00を出すなど充実の2年前から暗転した。

競技人生は故障と、それを乗り越えた先の成長を繰り返す。09年世界ユース選手権4位の後も、リオデジャネイロ五輪を翌年に控えた15年も、その2年後も、けがに悩まされた。でも試練こそ、飛躍のカギが隠れるとも身をもって知る。ロンドン五輪でガリガリだった体が今、たくましいのも逆境を克服した産物だ。改善点を突き詰め、いつも前より強い姿で戻ってくる。

今回も同じ。積み重ねた経験を糧に、前傾を維持するフォーム、その下地の体作りではウエート時に瞬発的に力を出せているかの数値化も始めた。周囲の好記録をよそに実戦からは離れ、意図的に人と会うことで、折れそうになる心を保った昨季。その受難も「収穫ある1年」と今は、前向きに捉えられる。これからは走れなかった鬱憤(うっぷん)を晴らしていく時だ。

28歳はまだ成長途上。最初の言葉の後は、こう続く。

「何をもって強くなって帰ってきたかと考えると、僕は自己ベストしかないと思う。自己ベストが出て、けがから復帰し、走り、体を理解できたといえる」

それは強がりにも、背水の決意にも聞こえない。何度もはい上がってきた。円熟味を増す中、たしかな自信がにじむ。【上田悠太】

◆山県亮太(やまがた・りょうた)1992年(平4)6月10日、広島市生まれ。修道中、高から慶大を経て、15年にセイコー入社。16年リオデジャネイロ五輪では、男子100メートルで2大会連続で準決勝に進出し、男子400メートルリレーは第1走者で銀メダルに貢献。18年ジャカルタ・アジア大会決勝では10秒00を出し、銅メダル。趣味は釣り。177センチ、72キロ。