挑戦者の立場に戻り、復権を期す。陸上男子100メートルの山県亮太(28=セイコー)が29日、オンラインで取材に応じた。

「この何年間かで、チャレンジャーの方に回った。気持ち的には攻めていけるのかな」と力を込めた。期待、そして常に結果を求められる立場は、重圧も大きいが、この2年で少し立ち位置も変わった。「目先の結果に一喜一憂しなくなった」。そして焦りもない。目の前の事に集中できている。28日のレースは後半で思うように伸びず、10秒36だったが、「4月はいい状態で迎えられるのではないか」と話した。次戦は織田記念国際(4月29日、広島)を予定している。

18年はジャカルタ・アジア大会決勝で10秒00をマークし、銅メダルに輝くなど、9秒台、そして日本新は条件さえ整えば、出せる状態だった。しかし、過去2シーズンはトップから陥落し、日本選手権も欠場を余儀なくされた。19年は腰を痛め、右足首の靱帯(じんたい)も断裂した。昨年は右膝を2度、痛めた。走れない時間が続き、ストレスを抱え、寝付きが悪い時期もあった。腹式呼吸で自律神経を整えるため、ボイストレーニングも始めたという。

もしも、五輪が延期にならなかったら…。活躍は絶対にできなかった。そもそも出られたかどうかも分からない。山県にとって、1年の延期の意味は大きい。「自分にとっては時間ができた。前向きに捉えて、今度はしっかり間に合うように頑張りたい」。12年ロンドン五輪、16年リオデジャネイロ五輪と過去に出場した2大会は、ともに自己ベストを出した。2021年はどんな年にしたかを問われ、「とにかく、すごくいい年にしたいですね」。物事を理路整然と話す男は、シンプルに短い言葉で語った。