【ブダペスト(ハンガリー)=藤塚大輔】世界ランキング1位の北口榛花(25=JAL)が66メートル73で日本女子ではフィールド種目で初となる金メダルを獲得した。
前回大会の銅に続くメダルで、女子では史上初の2大会連続メダルとなった。さらに日本陸連が定めた24年パリオリンピック(五輪)の選考基準を満たし、2大会連続の五輪代表に内定。陸上ではパリ五輪内定“第1号”となった。
快挙達成の裏には、チェコ人のデービット・セケラックコーチの存在があった。タッグを組み始めて4年。コーチの視点から、2人の関係性に迫った。
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デービット・セケラックコーチは、北口と出会った時から底知れぬ力を感じ取っていた。
18年11月。フィンランドで世界の指導者や選手が集まり、意見交換する場に参加した時のこと。
世界選手権銅メダルの村上幸史氏が日大を退職し、指導者不在となっていた北口から声をかけられた。
「コーチがいないんです」
そんな相談だった。
「元気で大柄な女の子だな」
迷える表情の中にもはつらつとした印象を抱いたが、同時に「彼女は何か不思議なものを持っている」と引き寄せられた。
「彼女はとても明るく、ポジティブなエネルギーを発散していました」
北口からは帰国後もメールで連絡を寄せられた。
19年2月。約1カ月のチェコ合宿を経て、師弟関係が始まった。
「まさかチェコで練習したいと連絡してくるとは、当時は思いませんでした」
セケラックコーチはすぐに「柔軟性を発揮できる」と特長を見抜いた。
投てき練習だけでなく、走り込みや砲丸投げなどを駆使したメニューを組み込み、体のバランスを高めてきた。
その積み重ねもあり、昨夏の世界選手権では銅メダルを獲得。「すべてがうまくいったので本当に驚きました」と想像以上の結果だった。
ただ、試合中には言い合いにもなった。
「集中しろ! 集中しろ!」
同じ言葉を繰り返すコーチに、北口は「この場面で集中しない人なんていない」とちょっぴり面倒くさくもなった。
あれから1年。師は今でこそ「私自身が昨年は緊張してしまった」と打ち明ける。
天真らんまんな教え子は、この冬もストイックに走り込んできた。「短距離選手なのか」と思われるほどのトレーニングで土台を固めた。コーチも「11月から4月までのトレーニングが計画通りに進んだ」と手応えがあった。
その予感は的中した。世界最高峰シリーズのダイヤモンドリーグでは2度の優勝。特に7月16日のシレジア大会では日本新記録となる67メートル04を飛ばしてみせた。
堂々の世界ランク1位で迎えた今大会。
「今年はスタートラインに立つ前の走りの距離に注意しないといけない。足、骨盤、右手の位置も大事。そんなことをいつも言い聞かせて、時には冗談も交わすんです」。そう見据えていた師は、この決勝でもシンプルな言葉を委ねていた。
「上を目がけて、遠くに投げろ!」
「集中しろ!」と連呼した1年前よりも、北口を信じられるようになった。
成熟した関係性の先に、最終6投目での逆転のビッグスローは待っていた。
うれしそうに走りながら、スタンドの最前列へと駆け寄ってきた北口。何度も何度も抱擁を交わした。
「最後の1投は美しかった」
コーチは目を細めながら、金メダルへの放物線を思い返していた。
来夏にはパリ五輪が控える。歩み始めて4年。教え子へ、笑顔で願う。
「金が欲しい。次も取りたい」
セケラックコーチは、北口が声を上げて笑っている瞬間が好きだ。
「やっぱり彼女の笑い声はお見事ですよ」
明るく響く笑い声を、これからも隣で聞き続ける。

