「スポーツの選択肢が広がったことは、よかったと思います」。スポーツ庁の室伏広治長官が1日、東京オリンピック(五輪)・パラリンピックを振り返って言った。

五輪では33競技、パラリンピックでは22競技、実に計55もの競技が今夏、東京で実施された。もちろん、過去最多。連日流れる競技映像に「こんなにあるんだ」と驚いた人も多かっただろう。

「(五輪で)スケートボードなどアーバンスポーツやサーフィンが新しい価値を残した」と話し「(パラで)ボッチャなど幅広い層に受け入れられた」とも言った。日本勢の活躍もあって、スケボーなど開催都市提案による追加種目にスポットが当たった。続くパラも注目され、なじみの薄かったボッチャや車いすラグビーが広く知られた。

陸上ハンマー投げの金メダリストとして知られる室伏長官自身、幼少期から多くのスポーツに親しんできたという。カリフォルニアで育った幼少期にはスケボーもこなし「当時五輪競技だったら、続けていたかもしれない」。18年のユース五輪ブエノスアイレス大会視察では「(スケボー界のレジェンド)トニー・ホークも来てたんですよ」と興奮気味に話していた。

陸上や水泳、柔道、体操など五輪をよりどころに発展してきた競技に加え、スケボーやスポーツクライミング、サーフィン、3人制バスケットボールなど「遊び」が「スポーツ」として認知されたことも大きい。「若者人気」の獲得を目指して採用されたこれらの競技を志す子どもが、さらに増えるのは間違いない。

五輪・パラリンピックはスポーツの「見本市」でもある。東京大会でも、多くの新しいスポーツが紹介された。「こんなスポーツもあるんだ」と興味を持ち、自分でプレーし、試合を見に行き、選手や競技をサポートする。それが数多くの競技でできれば、東京大会の「レガシー」になる。

それぞれのスポーツには「適性」がある。子どものころに多くのスポーツを経験することによって、最も自分に合ったものに出会える可能性も大きくなる。また、あるスポーツで培った能力が他のスポーツに生きることも多い。かつては、1つのスポーツに集中することがいいと思われた時代もあったが、今は多くのスポーツに接する方がプラスになると考えられる。

スポーツ庁の鈴木大地前長官は「浮気のすすめ」を説いた。「1つに絞るのもいいが、浮気も大切。いろいろ経験してほしい」。つまみ食いするためには、選択肢は多い方がいい。あとは、各競技が気軽に体験できるように環境を整えて参加するハードルを下げることだ。「やりたいけれど、できない」では困る。

残念ながら「東京で開催された」を感じにくい大会だった。それでも、テレビやネットで大会に触れる機会は多かった。多くのスポーツを知る機会になった。ただ、する環境がなければ知るだけで終わる。本当の意味で「大会を通してスポーツの選択肢が広がった」ことにはならない。多くのスポーツの環境を整備することは、東京大会を終えたスポーツ界の次の大仕事でもある。【荻島弘一】