タイガー・ウッズが約10カ月の沈黙を破り、3日まで行われたヒーロー・ワールドチャレンジで実戦に復帰した。PGAツアーの公式試合ではないものの、ランキング上位者を相手に2日目には一時首位に躍り出るなど、4日間で通算8アンダーまでスコアを伸ばした。ラウンド中は故障した箇所を気にすることもなく、ティーショットでもフルスイングを繰り返すなど、不安視されたフィジカル面も問題なさそうだ。
●実戦仕様のパッティング
- ヒーロー・ワールドチャレンジでバンカーショットを放つタイガー・ウッズ(ロイター)
スイング同様に「かなり仕上げてきたな」と感じたのは、ミドルからショートパットだ。トーナメント仕様に仕上げられたグリーンにも正確な距離感で対応ができていた。何よりもそのストロークに迷いがなかったのが、大きな収穫だったと思う。
プロがパッティングで不調に陥る要因は、”不信感”だ。
「何かいつもと違う」
「イメージと実際のボールの転がりが一致しない」
こういった少しのズレが、自らのストロークの不信感の種になる。
「本当にこのアドレスでよいのだろうか」
「ストロークは正しい動きになっているのだろうか」
一度不信感を抱いてしまうと、それを払拭するには時間がかかる場合が多い。練習の虫となってひたすらパッティング練習を行ってコーチとメカニカル部分のチェックを行う選手もいるし、今のストロークのままパフォーマンスが落ちないように実戦をこなしながらズレを解消する選手もいる。
今のタイガーにはそういった”不信感”が見られなかった。10m以上のロングパットが少し強めのタッチになってしまうシーンが何度か見られたが、迷いのあるという感じは見られない。今後実戦の回数が増えれば長い距離もタッチが合ってくるだろう。
●課題はやはりアプローチ
2015年のタイガーの復帰戦、ウェルスマネジメント・フェニックス・オープンでは、まるでアマチュアのようにダフって大きくショートしたり、トップをしてグリーンを外すような場面を何度も目にした。そのころからタイガーはアプローチイップスではないかという指摘は多い。
今回の復帰戦ではダフりやトップといった大きなミスはなかったものの、3日目に距離が合わないミスが何度か見られた。特に30ヤード前後のピッチ&ランのアプローチで距離感の調整がうまくいっていないように見えた。
「タイガーがショートゲームで優れている点は、インパクトの再現性の高さだ」
以前タイガーのパッティングコーチを務めていたマリウス・フィルマルターに話を聞いた時に、そう教えてくれた。
インパクトの再現性が高いということは、構造的に問題のない安定したストロークを行うことと、力感が一定で緩みが生じないということが必要になる。これはパッティングもアプローチも同じである。
- タイガーのパッティングコーチを務めていたマリウス・フィルマルター氏
不調時はリーディングエッジが地面に刺さり、いわゆるザックリの状態になることが多かったが、今回はバンスをうまく使って打つシーンが見られ技術的には問題ないことがうかがえる。力感に関してもタイガー本来の緩みのないインパクトが戻ってきている。あとは実戦を繰り返す中で試合勘・距離勘を取り戻していくことができれば、ピンチをチャンスに変えてきたタイガーを再び目にすることができるだろう。
それ以外のスピンをかけるアプローチショットではスピン量のコントロールがされており、キャリーとランの割合もイメージ通りに打てていた。またランニングアプローチの距離感も合っており、実戦的なトレーニングを積んできたことがうかがえる。ショートゲームに関しても先は明るいとみてよいだろう。
タイガーが見据えるのは4月のマスターズ。それまでに今回の課題をどのように払拭してくるかが楽しみだ。
◆吉田洋一郎(よしだ・ひろいちろう)北海道苫小牧市出身。シングルプレーヤー養成に特化したゴルフスイングコンサルタント。メジャータイトル21勝に貢献した世界NO・1コーチ、デビッド・レッドベター氏を日本へ2度招請し、レッスンメソッドを直接学ぶ。欧米のゴルフ先進国にて米PGAツアー選手を指導する80人以上のゴルフインストラクターから心技体における最新理論を直接学び研究活動を行っている。書籍「ロジカル・パッティング」(実業之日本社)では欧米パッティングコーチの最新メソッドを紹介している。オフィシャルブログ http://hiroichiro.com/blog/
(ニッカンスポーツ・コム/ゴルフコラム「ゴルフスイングコンサルタント吉田洋一郎の日本人は知らない米PGAツアーティーチングの世界」)