昨年は秋に順延されたマスターズだが、今年は例年どおり4月第2週の日曜日、11日に最終日が行われる。会場はもちろん、米ジョージア州のオーガスタ・ナショナル・ゴルフクラブだ。
オーガスタナショナルGCは「ガラスのグリーン」と呼ばれる傾斜のきつい高速グリーンによって難易度の高いコースと言われているが、中でも「アーメンコーナー」の異名がある11番から13番は特に難易度が高い。
また、オーガスタの特徴として、パー5のコースは比較的距離が短くバーディーが取りやすいのだが、パー4は距離が長いホールが多く、グリーン形状が複雑であるため難易度が高くなっている。ホールによっては「パーすらも取らせない」という設定になっているように感じられるほどだ。それだけに、マスターズではパー5でしっかりバーディーを取り、パー4ではしっかりとパーでスコアをキープするという戦略が求められる。
■パー4の攻め方が重要
4つのパー5は飛ばし屋にとってバーディー、もしくはイーグルの出るチャンスホールとなるだろう。そうなると、圧倒的な飛距離を武器とするブライソン・デシャンボーが優勝争いの中心になると思う。昨年11月に行われたマスターズでは、18バーディー、1イーグルを記録し、飛距離アップによる攻撃的なゴルフが通用することを証明した。
公式会見でデシャンボーが語っていたが、カギとなるのは難易度の高いパー4の攻略だ。1番、5番、11番のパー4では、新たな「アタッキング・ライン」を見つけるべく、林の上やバンカー越えを狙ったりしながら練習ラウンドを行ったという。新ドライバー投入を示唆していたが、飛距離と方向性を兼ね備えたドライバーショットを放つことが勝利のカギとなる。
そして、勝敗の鍵を握るのは最終日のバックナインの戦い方だ。今回は優勝争いが繰り広げられるオーガスタのバックナインの中から特にキーポイントとなる10番から13番、17番、18番の特徴を紹介したい。
■多くのドラマを生んだ12番
私は2017年と2019年の2度、マスターズを観戦しているが、やはりオーガスタナショナルGCは特別な場所だ。コースの美しさ、歴史を感じさせる建造物、会場の雰囲気など、どれをとっても素晴らしく、世界中から高額なチケット代を払って見に来るゴルフファンを心の底から満足させてくれる。
今まで何度もマスターズをテレビで見ていたが、実際にコースに足を運んでみるとテレビで見ていたものとは全くの別物だった。特に驚いたのはバックナインの入り口10番ホールだ。495ヤードのパー4で打ち下ろしの左ドッグレッグなのだが、まるでスキー場かと思うほどの下り傾斜になっている。ティーグラウンドからはボールの落下地点が見えず、球筋をイメージするのが難しかった。
後半の11番から13番は「アーメンコーナー」と呼ばれ、神に祈りをささげなければならないほど難しいとされるが、実際は後半最初の10番ホールは2019年の平均スコアは4.2467(難易度ランク3位)となかなかの難敵だ。ティーグラウンドでは左の木が目に入り右に打ちたくなるが、右に真っすぐ飛んでいけば林に入ってしまう可能性が高い。そのため、通常はドローを打つのだが、左にも林があり曲げすぎは禁物だ。グリーンには奥から手前に傾斜がきついので、手前から攻める必要がある。セカンドショットの距離感がカギになるホールだ。
11番ホールは505ヤードと距離の長いパー4。2019年の平均スコアは4.400と18ホール中で最も難易度が高い。ティーショットは両サイドの林が効いており、フェアウェイキープをしつつ、飛距離のあるドライバーショットが求められる。セカンドショットは200ヤード前後の距離が残るが、グリーンの左と奥に池があり、グリーン上には池に向かう傾斜があるため、落としどころが悪いとボールが池に転がり落ちてしまう。右サイドに逃げたいところだが、グリーンは池に向かう右から左の傾斜がきつく、デリケートなアプローチの技術が求められる。距離が長いうえにグリーン周りも難易度が高く、パーでしのげれば十分といったホールだ。
デシャンボーはティーショットで右サイドを狙い、林の先にある開けたエリアまで飛ばすことを示唆していたが、それが実現すれば一気にバーディーが狙えるホールになる可能性もある。
12番ホール155ヤードのパー3は、奥行きが短く横に長いグリーンがティーグラウンドに対して斜めに配置されている「レダン」と呼ばれる形状になっている。手前には右奥に伸びる池が配置され、右打ちのゴルファーはこすったスライスを打つと池、それを怖がってしっかり捕まえに行くとオーバーという、縦の距離感が難しいホールだ。
もちろん、ティーショットでは正確なショットが求められるが、それ以上に選手を苦しめるのは気まぐれな風だ。奥にある林のせいで風がグリーンの上空で渦を巻きやすくなっているという。ティーグラウンド付近と上空の風の向きが違うことが多くあり、選手とキャディーは風の読みに苦労させられる。そのため、ナイスショットだと思っても、グリーンに届かず池ポチャしたり、オーバーして林に打ち込んでしまったりすることがあるのだ。
■ウッズも「池ポチャ」で10打
過去にも12番では多くのドラマが起きており、2019年には最終日に首位だったフランチェスコ・モリナリが12番で池に入れてしまったのをきっかけに崩れてタイガー・ウッズに逆転優勝を許したのが記憶に新しい。そのウッズも、昨年のマスターズでは3度の「池ポチャ」で自己ワーストの10打をたたいた。
2016年、連覇を目指していたジョーダン・スピースも池に落とした後、ザックリにオーバーとミスを重ね「7」をたたいて首位から陥落し優勝を逃した。最終日、このホールで池に落とすと勝てないというジンクスがあるくらいだ。
13番は510ヤードの右ドッグレッグのパー5で、このホールのドッグレッグのコーナーまでをアーメンコーナーと呼んでいるが、オーガスタの中では比較的優しいホールだ。むしろ、このホールと15番のパー5で確実にバーディーを取らないと、上位に浮上することは難しい。バーディーを狙いたいホールだが、ティーショットを右サイドに打つと、セカンドショットの距離が残るだけではなく、前上がりの傾斜になるのでグリーンを狙うセカンドショットの難易度が高くなる。ドローボールで平らなエリアのフェアウェイをとらえたい。
そして、最後の難関が17番と18番のパー4だ。17番は440ヤードのストレートなホールだが、打ち上げのため数字以上の距離を感じ、グリーンの傾斜も非常に大きい。簡単にバーディーを取れるホールではない。
18番は465ヤードの右ドッグレッグだが、ティーショットが飛びすぎると、左の大きなバンカーにつかまってしまうので、バンカーの手前にレイアップするか、フェードをかけてコースなりに曲げて打つ必要がある。ティーグラウンドからは左右の林がせり出して見えるので、ティーショットではプレッシャーがかかる。セカンドの位置からはかなりの打ち上げとなっているため、グリーン面が見えないので距離感を出しづらいという難しさもある。
このように、オーガスタのバックナインでは、攻めるホールではしっかり攻めてバーディーを取り、難しいホールでは我慢をしてパーをキープするという姿勢が欠かせない。ただでさえ油断ならないホールが続く中、メジャー特有のメンタル面のプレッシャーもあり、冷静さを保つのが難しい。そのため、勝ち方を知っている経験値の高い選手が有利だといえるかもしれない。いずれにせよ、難易度の高いオーガスタのコースを各選手がどう攻略するのかが楽しみだ。
(ニッカンスポーツ・コム/吉田洋一郎の「日本人は知らない米PGAツアーティーチングの世界」)
◆吉田洋一郎(よしだ・ひろいちろう)北海道苫小牧市出身。2019年度ゴルフダイジェスト・レッスン・オブ・ザ・イヤー受賞。欧米のゴルフスイング理論に精通し、トーナメント解説、ゴルフ雑誌連載、書籍・コラム執筆などの活動を行う。欧米のゴルフ先進国にて、米PGAツアー選手を指導する100人以上のゴルフインストラクターから、心技体における最新理論を直接学び研究している。著書は合計12冊。書籍「驚異の反力打法」(ゴルフダイジェスト社)では地面反力の最新メソッドを紹介している。書籍の立ち読み機能をオフィシャルブログにて紹介中→ http://hiroichiro.com/blog/