ここ数年、欧米ゴルフティーチング界で注目を集めているゴルフスイング研究者にサショ・マッケンジー教授がいる。日本ではあまり名前が知られていないが、欧米のゴルフ界ではパッシブトルクの提唱者として知られており、クリス・コモ(タイガーウッズ前コーチ、デシャンボーのコーチ)やショーン・フォーリー(タイガーウッズ元コーチ)、キャメロン・マコーミック(ジョーダン・スピースのコーチ)など、多くの一流指導者のティーチングに大きな影響を与え、ゴルフティーチング界の最先端をリードする存在だ。


■クリス・コモら一流指導者に大きな影響


サショ・マッケンジー教授
サショ・マッケンジー教授

サショ・マッケンジー教授は現在、カナダのノバスコチア州にある聖フランシスコ・ザビエル大学で教べんをとりながら、ゴルフに重点を置いた「スポーツエンジニアリング」と「バイオメカニクス」の研究をしている。ゴルフクラブの「パッシブトルク」に関する研究論文を発表すると、ゴルフ界に大きな影響を与え、欧米のトップコーチやPGAツアー選手に指導を行うようになった。欧米の研究者やコーチが参加するゴルフバイオメカニクスのコミュニティーでは中心人物としてリスペクトされている。その他に、ゴルフクラブやゴルフスイング測定機器の開発を行い、地面反力を効率的に使うためのゴルフシューズの開発にも関わってきたという。

私は以前からマッケンジー教授のスイング研究に興味があり、共通の友人であるクリス・コモに紹介してもらって勉強会などに参加するようになった。マッケンジー教授の研究は非常に興味深く、欧米のトップコーチたちが「ゴルフサイエンスの最前線だ」(クリス・コモ)、「私のレッスンメソッド・レッスン哲学に最も影響を与えたのはマッケンジー教授の研究だ」(ショーン・フォーリー)などと、称賛した意味が理解できた。


クリス・コモを指導するマッケンジー教授
クリス・コモを指導するマッケンジー教授

ゴルフスイングはゴルフクラブという道具を使ってボールを打つ競技のため、クラブの動きを無視することはできない。身体の動きだけではなく、クラブに加わる三次元のフォースやトルクの働きを理解することで、ゴルフスイングのメカニズムを理解することができる。現代のゴルフティーチャーには「目に見えないもの」がどれだけ見えるようになるかが問われている。旧来のスイングプレーンや体の動きなどの目で見えるものではなく、バイオメカニクスなどの知識によって、フォースやトルクなどの「目に見えないものが見える」状態になることで、最適解を導くことができるようになる。私自身、マッケンジー教授の研究を学ぶことで、今まで学んできた多くのスイング理論に対しての理解が深まり、ゴルフスイングを分析し修正することが容易になった。


■スイング改善に欠かせないパッシブトルクの原理


ここ数年、ゴルフスイングにおいて「パッシブトルク」という言葉がすっかり定着した。トルクという言葉は以前から自動車のエンジンの性能を表すときなどに使われているが、回転軸を中心に発生する力のことだ。パッシブトルクの「トルク」とは回転やねじれの力のことで、「パッシブ」とは「受動的」だから、パッシブトルクとは「受動的に発生する回転の力」という意味になる。つまり自分で生み出すのではなく自然発生的に起きる力のことだ。この回転の力が正しく発生すると、クラブを自然とプレーン上に戻し、フェースを閉じていく。

パッシブトルクは誰でも知らないうちに発生させているもので、別に新しい打ち方でも、特別な人だけが使いこなせる力でもない。これまでも多くの名選手が経験に基づいて使ってきた力を、理論的に裏付けたものに過ぎない。アマチュアゴルファーも意識せずにパッシブトルクを使っているのだ。

ただ、パッシブトルクの原理を理解し、上手に使わないと適切なスイングができないだけではなく、ミスショットの原因にもなる。逆に言えば、パッシブトルクを正しく発生させればスイングの改善は容易にできるということだ。パッシブトルクを適切に使えれば、スライスの改善を行うことができるし、効率的にヘッドスピードを高めることができるので、飛距離を伸ばすことも可能だ。


■アマの手本はジェイソン・ダフナー


マッケンジー教授によると、PGAツアー選手の中では、セルジオ・ガルシアやジョン・ラームなどがパッシブトルクを効率的に使っているという。しかし、ガルシアのスイングは個性的すぎるし、ラームのスイングはスピードが速すぎてアマチュアがまねするには難しい。

彼がアマチュアの参考になる選手として名前を挙げたのは、ジェイソン・ダフナーだ。2013年の全米プロゴルフ選手権の覇者で、当時、ゴルフ界で流行した「ダフナリング」で覚えている人もいるかもしれない。ダフナーはフラットな1プレーンスイングの持ち主で、低くシャローなダウンスイングを行い、インパクトに向けてパッシブトルクを使ってクラブを振り戻している。アマチュアにとって体に無理なストレスを与えない1プレーンスイングならまねをすることも可能だろう。


ゴルフチャンネルをはじめ、多くのメディアに出演
ゴルフチャンネルをはじめ、多くのメディアに出演

サショ・マッケンジー教授のスイング研究は高度でアマチュアには少しレベルが高いかもしれない。ただ、パッシブトルクの原理を理解することで、クラブの使い方を学びゴルフ上達に役立てることができる。「なぜ、そうなるのか」という原理原則を知ることでゴルフインテリジェンスを高め、ゴルフスイングのレベルを高めてほしい。

(ニッカンスポーツ・コム/吉田洋一郎の「日本人は知らない米PGAツアーティーチングの世界」)


サショ・マッケンジー教授にアドバイザーをお願いした書籍、「ゴルフ3Dスイング」(河出書房新社・吉田洋一郎著)が発売となりました。以下のページで立ち読み動画をご紹介していますのでご覧ください。

https://bit.ly/3uYddfw


◆吉田洋一郎(よしだ・ひろいちろう)北海道苫小牧市出身。2019年度ゴルフダイジェスト・レッスン・オブ・ザ・イヤー受賞。欧米のゴルフスイング理論に精通し、トーナメント解説、ゴルフ雑誌連載、書籍・コラム執筆などの活動を行う。欧米のゴルフ先進国にて、米PGAツアー選手を指導する100人以上のゴルフインストラクターから、心技体における最新理論を直接学び研究している。著書は合計12冊。書籍「驚異の反力打法」(ゴルフダイジェスト社)では地面反力の最新メソッドを紹介している。書籍の立ち読み機能をオフィシャルブログにて紹介中→ http://hiroichiro.com/blog/