子供の頃から汗を流した校庭は、水につかった。校舎は全棟が浸水被害に見舞われ、体育館は避難所になっていた。

 7月24日から4日間に渡り、兵庫・チェリーヒルズGC(6307ヤード、パー72)で行われた女子ゴルフの最終プロテスト。通算10アンダーの14位で、20位タイまでに与えられる合格をつかんだ渋野日向子(19=フリー)は、言葉を詰まらせた。

 「地元がすごく大変なことになっている中で、自分にも何かできることがないかをずっと考えていました。でも、何もできない。今はプロテストに受かって、みんなに恩返しをして、少しでも安心させてあげることしかできないと思った」

 98年生まれの黄金世代で、岡山市で育った。7月初旬、西日本を襲った豪雨は、渋野の故郷に大きな被害をもたらした。平島小学校時代は、スポーツ少年団で男の子に交じり、ソフトボールに明け暮れた。今でも実家に戻ると、練習に顔を出し、小学生とボールを追いかける。それが気分転換にもなった。その校庭が集中豪雨で水につかり、校舎にも土砂が流れ込んできた。

 「小学校の同級生にも、家に水が入り込んでしまって、ずっと、大変な思いをしている人がいました」

 1年に1度、ゴルフ人生をかけた大事なプロテスト。とても集中できる状態ではなかった。昨年は第3ラウンドまで通算14オーバーの97位に沈み、最終日に進むことすら許されなかった。

 合格圏の20位ははるか遠く、振り返れば最下位はすぐそこにあった。プロになることの難しさを、これほど実感したことはなかった。どん底からはい上がるには、努力しかなかった。

 「以前、コースに行った時に、先輩の大出瑞月さんがずっとパターの練習をしていて、それを見ていたんです。私も、それくらいやらないと、うまくはなれないんだと、気づかされました。うまくなりたかった」

 2度目の挑戦となった今年の最終プロテストも、第3ラウンドまでは合格圏に1打足りず21位にいた。

 7月27日の最終日。1年前の悔しさを晴らすために、必死に追い上げる姿があった。前半だけで5バーディー、ノーボギー。後半1つスコアを落としたものの、68で回り、土壇場で合格圏へと滑り込んだ。

 「ドキドキしていたんですけど、朝から今日は行ける気がしていました。(故郷に)恩返しがしたかったですから」

 6月のステップアップツアー、スカイレディース・ABC杯で2戦連続のトップ3入り。今季は下部ツアー10戦全てで予選を通過し、5度のトップ10入りを果たすなど、確かな実力を付けつつある。

 「レギュラーツアーでも優勝争いができるように、これからも目標を持って頑張りたいです」

 輝く日を待ち、自らを磨き続けるダイヤの原石。故郷を思いながら、やっとつかんだプロの道を歩んでいく。

【益子浩一】

 ◆渋野日向子(しぶの・ひなこ)1998年(平10)11月15日、岡山市生まれ。8歳からゴルフを始め、ソフトボールや野球も経験。岡山・作陽高校出身。QT132位で今季からステップアップツアーに出場、7月末の時点で、下部ツアーの獲得賞金は同ランク6位の約573万円。推薦で初出場した6月のレギュラーツアー、アース・モンダミン杯は予選落ちしたが、第1日にホールインワンを達成し賞金600万円を獲得した。165センチ。