夢は何ですか?

そう尋ねると、まだあか抜けない、19歳の少女は戸惑った表情をした。少し考えてから、こう答えた。

「レギュラーツアーで優勝争いができるように。簡単に優勝はできないと思うので『優勝争い』にしておきます。いつかは賞金女王に…。あっ、まだそんなことを言える立場じゃないですね。恥ずかしいから、それは書かないでください」

18年7月27日。やけに日差しが強かった。女子ゴルフのプロテスト最終日。2度目の挑戦でつかんだ「プロ」の道だった。無名の選手で、話を聞いた記者は私だけだった気がする。その数週間前、西日本を襲った豪雨で彼女の故郷岡山は大きな被害を受けていた。

「地元が大変なことになっていて、自分にも何かできることがないか、考えていたんです。いつかゴルフで恩返しがしたいです。もっと、うまくなりたい」

彼女こそ、渋野日向子だった。それから1年後に全英を制し、夢として口にすることすらためらっていた賞金女王にあと1歩まで迫ろうとは、当時は思いもしなかった。昨年はレギュラーツアー出場1試合で獲得賞金0円。秋には下部ツアーでも満足な結果が出ず、試合会場で顔を合わせると、辛そうな顔をしていた。

元サッカー担当だった私は、かつて取材をした本田圭佑や香川真司も10代の頃は壁にぶつかり、もがいていた話をした。香川はセレッソ大阪時代はJ2で、本田も名古屋グランパス時代に慣れないサイドバックをした時期があった。ただ彼らは常に野心を抱き、いつか光り輝こうとしていた。余計なお世話だっただろうが、そんな話を渋野は真剣に聞いてくれた。

この1年、彼女が流した悔し涙は数え切れない。居残り練習は暗くなるまで続いた。ある日は携帯電話でグリーンを照らし、ある日は月明かりを頼りにパットを打った。努力を怠らなかったから短期間で強くなった。あか抜けなかった少女は1年で超一流のプロになった。それは、涙と努力の結晶だった。【益子浩一】(ニッカンスポーツ・コム/ゴルフコラム「ピッチマーク」)

1日、メルセデスランキングで1位となり花束を手に笑顔を見せる渋野
1日、メルセデスランキングで1位となり花束を手に笑顔を見せる渋野