笑顔を見せながら参加者のスイングを確認する尾崎将司(2020年2月1日撮影)
笑顔を見せながら参加者のスイングを確認する尾崎将司(2020年2月1日撮影)

ゴルフ担当になって、ちょうど1カ月の2月1日、ツアー最多94勝の尾崎将司(73=I・S・T)を初めて取材した。「ジャンボ尾崎ジュニアレッスン会 supported by ISPS」で、尾崎は中学3年から大学3年までの男女32人のスイングを食い入るように見入っていた。そして最後に、参加者にアドバイスを送った。

ここ数年担当していたサッカーでも相撲でも「○○教室」といった形で、プロがその日限りでアマチュアに指導する際は、優しく楽しく「君たちには将来がある」といったニュアンスで締めることばかりだった。だがゴルフ界のレジェンドはまったく違った。

32人を前に仁王立ちすると、終始険しい表情。「ジャンボ尾崎ゴルフアカデミー」の入会選考を兼ねていたとはいえ、厳しい言葉が次から次へと飛び出した。

尾崎 うまくなろうと思ったら、人よりしんどい思い、つらい思い、苦しい思いをしなさい。レッスンしてもらったからといって、すぐにうまくはならない。残念ながら君たちのレベルはまだまだ低い。ゴルフが好きで、うまくなりたいなら、どうすればいいのか。自分がどのレベルにあるのか、どれだけの体力、技術があるのか、そういうことを自分である程度、分からないといけない。ゴルフだけやってうまくなろうと思っているなら、それは大きな間違いだ。

参加者全員が直立不動で聞き入っていた。プロゴルファーに転身前は、プロ野球選手でもあった尾崎。技術面だけでなく、体力面の充実も欠かせないこと、何より努力の重要性を力説した。昨今の風潮なのか、公の場で初対面の人に対し、これほどの熱量で厳しいことを話す人を見たのは、久しぶりに感じた。

直後に報道陣の取材に応じた尾崎は「今は自分のことより、若い子の頑張っている姿を見ている方がいい。若い子にいい練習をしてもらいたい」と、一転して柔和な笑顔を見せて話した。自身は昨季は出場7試合。今季も3試合の出場は考えているが、それ以上は体調などと相談しながら決めるという。それでも「若い子を怒鳴り散らかす若さはまだあるよ。『自分に甘く、人に厳しく』だな」と話し、豪快に笑った。

厳しいことを言うには、それ相応の覚悟が必要だ。自分に自信がなければできないし、嫌われたり批判されたりといった“返り討ち”に遭う可能性も高まる。プロゴルファーは皆、個人事業主であり、人気商売の側面もあり、そういったリスクを避けたくなるのも当然。それでもあえて厳しい言葉を発するのは、将来の選手に期待するゴルフへの愛情の裏返し、ゴルフ界への恩返しだろう。さまざまなプロスポーツに「レジェンド」と呼ばれる選手がいる。1月に73歳となった今も、現役であり続けるゴルフ界のレジェンドは、良い意味で「昭和」の薫りが色濃く残っていた。【高田文太】(ニッカンスポーツ・コム/ゴルフコラム「ピッチマーク」)

参加者や参加プロらと記念撮影に納まる尾崎将司(前列中央)(2020年2月1日撮影)
参加者や参加プロらと記念撮影に納まる尾崎将司(前列中央)(2020年2月1日撮影)