音頭を取っていたのは藤田寛之(51=葛城GC)だった。ゴルフ男子ツアーの年内最終戦、日本シリーズJTカップの最終日。表彰式後、クラブハウスの前に、次々と人が集まっていた。花束を持った藤田が「ピーター!」と声を掛けると、照れくさそうにピーター・ブルースさん(52)が近づいてきた。

藤田と14年6月から6年半コンビを組んできた、オーストラリア人キャディー。この大会でプロキャディーをやめ、母国に帰るブルースさんは、花束を手渡されると今にも泣きそうに、細かくまばたきしながらもほほ笑み、藤田とガッチリと握手を交わした。

石川遼ら多くの選手、キャディーが「ありがとうございました」「お疲れさまでした」と、あいさつに訪れた。感謝の言葉で埋め尽くされた寄せ書きの色紙と、花束を手にしたブルースさんを中心に、最後に笑顔で記念撮影。チャン・キム(米国)が優勝した表彰式にも、ひけを取らない盛り上がりとなったが、ブルースさんは「すごくさみしいですね。いい人たちに出会えて、藤田さんとは全米オープンや全英オープンに行くこともできて、すごくいい思い出になりました」と、流ちょうな日本語で、しみじみと語った。

大会最終日翌日の12月7日に母国に帰り、今後はゴールドコーストにあるゴルフ場で、アマチュアにアドバイスなどを送る仕事を行うという。「日本のコースは山が多いから、平らなアメリカやオーストラリアとは違って、アップダウンが激しくて、しんどくなってきたんですよ(笑い)」と、細身の体で話した。01年から参戦し続けている、日本ツアーとプロキャディーから離れる決意をした。

ただ、卒業まで日本の大学に通い続ける予定の3年の長男、1年の長女、夫人は日本に残っている。「長男は日本で就職を考えていますし、絶対に何度も日本には帰ってきます」と、日本への愛情の深さをのぞかせた。

昨年、小型船舶免許を取得した藤田とは、藤田の操縦する船で旅行するなど、プライベートでも親交が深い。藤田も、首位と2打差の5位に浮上した第2ラウンド終了後には「ピーターと一緒にできるのも、あと2日ですね。なかなか、ここまで気の合うキャディーに出会えることはない。さみしいですよ。ピーターと最後に、いい思い出をつくって終わりたい」と、さみしそうに語っていた。

結局、藤田は、尾崎将司が96年に残した49歳311日という最年長優勝の更新とはならなかったが、レギュラーツアーでは今年最高の8位となった。「いい思い出」として、ブルースさんと仲の良かった関係者を集め、花束を贈って門出を祝った。ブルースさんも、プロキャディー最後の日を振り返り「15番ぐらいから『これで最後か』と考えてしまいました。藤田さんは『このグリーンは傾斜がきついけど、ピーターはどう思う?』とか、あれだけ経験のある人が、自分を信頼してくれて、やりがいがありました。最終日も(68で回る)ナイスプレー。51歳なのに、本当にすごい」と、同世代の藤田に感謝と敬意を表した。

今後は日本とオーストラリアに離れるが、互いを「親友」と呼び合い、再会を約束する。2人は40代中盤の時に初めてコンビを組み、育った環境も、国籍も違うが、ゴルフを通じて互いを理解し、尊敬し合える関係を築いた。他のプロスポーツでは、現役を引退しているような年齢から培われた友情は、選手生命が長く、世界中でプレーされているスポーツのゴルフだからこそ生まれた。

このご時世で、選手同士、選手とキャディーの間も“密”を避けたプレーは必要。それでも年齢を重ねたからこそ、以前にも増して互いを思いやり、親密さを増した2人。とかくピリピリとしたコロナ禍の毎日にあって、温かい気持ちにさせてもらった。【高田文太】(ニッカンスポーツ・コム/ゴルフコラム「ピッチマーク」)