約半月が経過した今思い返しても、不思議な光景だったと感じる。今月14日に行われた明治安田生命レディース最終日。3日間、54ホールを戦って、稲見萌寧(もね、21=都築電気)と永井花奈(23=デンソー)が、通算6アンダー、210で並び、プレーオフに突入した。プレーオフは3ホールにも及んだ。その事実だけをとらえれば「死闘」という表現もできるだろう。だが実際は「死闘」とは、ほど遠かった。けっして内容が乏しかったわけではない。2人がプレーオフの間、終始楽しそうに、おしゃべりしながらプレーしていたからだ。

この大会の賞金総額は8000万円だった。優勝した稲見が1440万円を手にして、2位の永井は704万円だった。その差は736万円。目の前の相手に勝てば、1年間、毎日2万円ずつ余分にお金を使えると思うと、燃えない理由はないと思ってしまう。特に対人競技のプロスポーツはそうだろう。例えば練習の合間のアルバイトで生計を立てていたボクサーが、やっとたどり着いたタイトルマッチで、勝てば750万円、負ければ14万円しか手にできないとなれば、これ以上の発奮材料はないはずだ。力士だって、多くの懸賞金がかかる、人気力士との取組や結びの一番は奮起する。ところが稲見と永井には、全くそれがなかった。

ポーカーフェースでも何でもない。本当に楽しかったと、2人はホールアウト後に声をそろえた。ともに東京都出身で、稲見は「優しくて、昔から仲良くしていただいてます」と、親しみを込めて話した。永井も負けたものの「久しぶりに優勝争いできたことがうれしかった」と、晴れやかな表情で振り返った。一般的に、気の合う人と回ることが多い練習ラウンドも、この大会前に2人は一緒だったほど。稲見は「まさか練習ラウンドで回った2人が、プレーオフになるとは思わないですよね、みたいな話をしていました」と、プレーオフ中の会話の一端を明かした。永井も「このコースは夕方になると西日が強くてグリーンも読めなくなるので『早くしないと西日がくる!』とか、話していました」と、駆け引きなどはなく、盛り上げた。

ほとんどのプロスポーツは、1対1や9対9、11対11など、人数こそ異なるが、目の前の相手を倒したり破ったりすることを求められ、ファンもその姿に熱狂する。だがゴルフは、首位を争う相手が目の前にいるとは限らない。何より、相手のことを意識するよりも、自分との戦いになる。自分が良いプレーさえすれば、自然と勝ちに結びつき、仮に負けても、良いプレーができた実感さえあれば、充実感につながるのだろう。

ゴルフは、格闘技系はもちろん、1つのボールをめぐって争う他の球技とも、根本的に性質が異なるスポーツだと気付かされた。ゴルフ担当になって2年目。プレーオフを戦う選手同士が談笑する光景は、たしかに珍しいという。だが、それに驚きを感じるわけではなく「そういうこともあるよね」と、思えるぐらいになって初めて、ゴルフの本質を理解し始めたことになるのかもしれない。【高田文太】